ハラスメントと言われる前に!部下とのコミュニケーションで知っておきたい3つのコツ
ハラスメント対策を実施する中で、管理職が部下との適切な関わりに悩む場面もあると思います。今回は、「これってハラスメント?」と思われるようなグレーゾーンの言動を解説し、ハラスメント予防に繋げるコミュニケーション方法をご紹介します。
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定義・事例を踏まえてハラスメントのグレーゾーンを理解する
ハラスメント防止のために、まずはハラスメントに関する正しい知識を確認しておくことが大切です。定義や事例を通して「ハラスメントとは何か」を考えていきましょう。
ハラスメントの定義を確認
ハラスメント(harassment)とは、元来「嫌がらせ」を意味する言葉ですが(※1)、近年では様々な場面で使われるようになりました。性別によって職場で要求される役割を強要する「ジェンダーハラスメント」、労働時間を減らすように命じながらも、業務量の改善や労働時間短縮の方策を示さずに、結果を従来通りに求める「時短ハラスメント」などは新しい例でしょう。
職場におけるパワーハラスメントは「優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています(※2)。
しかしながら、ハラスメントの定義は解釈の幅が広く、その線引きが難しいことも事実です。よって、どのハラスメントにおいても「不適切な行為ではあるが、パワハラとは言い切れない」という、いわゆるグレーなケースは非常に多くなっています。
グレーゾーンの事例から共通点を探る
ハラスメントと捉えられる特徴や共通点は、どのような点にあるのでしょうか。ここからはグレーゾーンの具体的な事例を紹介します。
※実際にピースマインドでお受けした相談内容を基に、プライバシーに配慮し修正を加えてまとめています。
①部下への期待?上司への不信感?
上司A「今年入ってきた部下はみんな出来が良く、こちらのフォローがなくてもしっかり業務を進められそうだ。この前、部下に営業先の担当を変えて欲しいと言われたが、彼ならできると信じて仕事を任せた。この調子でどんどん成長してもらいたい。」
部下A「上司が部下の意見を聞き入れず、フォローも全くしてくれず、責任を全て部下に押し付けてくる。周りもその上司の振舞いを知ってはいるが、上司は仕事ができ、役職上位者に気に入られているため、職場では上司のハラスメント的な振舞いについて口にできる雰囲気ではない。」
②距離を縮めるためのコミュニケーション?先輩からの嫌がらせ?
上司B「後輩とうまく距離を縮めたいけど、なぜか避けられている気がする。信頼して仕事を任せているし、休憩時間にはジョークを言って場を和ませようとしているのに。この前、お客さんとの電話中に話しかけられた時に少し怒ってしまったけど、あれが良くなかったのだろうか。」
部下B「入社以来ずっと関係が悪く、プレッシャーを与え続けてくる先輩社員がいる。その先輩は、自分も含めて後輩を馬鹿にしたり、嫌がらせをしてくる。些細なことでも自分の気に食わないことがあると、話を一方的に打ち切って怒りをぶつけてくる。」
③部下への叱咤激励?精神的な苦痛?
上司C「何回指摘しても、一向に改善されない部下がいる。自分も若い頃はよく失敗し、先輩から強い口調で責められたり、時には頭を叩かれたりした。流石に暴力は振るわないが、多少きつい言い方をしないと、仕事に対する姿勢は直らないだろう。」
部下C「10年間同じ上司の下で働いているが、数年前から毎日職場で一方的に怒鳴られるようになった。業務に関して理不尽に怒られたり、きつく問い詰めらており、酷いときは数時間に及ぶこともあるため、かなりのストレスになっている。」
ハラスメントのグレーゾーンと思われる場合に共通する特徴とは?
上記の例から、どういった行動を取るとパワハラと捉えられる可能性があるか、その共通点が見えてきます。ポイントは自分の気持ちをどのように伝えるかという点にあるでしょう。
共通する特徴①一方通行のコミュニケーション
上司の大きな仕事の一つである部下への指示やフィードバックは、伝え方によってミスコミュニケーションにつながることもあります。「上司が部下の意見を聞き入れてくれない」「プレッシャーを与え続けてくる」という内容は、上司の伝え方が一方的なコミュニケーションとして受け取られている例です。相手の意見を受け入れながら、自分の意見も上手に伝える方法を習得し、お互いが納得することのできるコミュニケーションを実践しましょう。
共通する特徴②自分視点での言動
指示やフィードバックを受け取った側がプレッシャーを感じやすい傾向として、自分視点の言い方になっている場合が考えられます。「後輩を馬鹿にしたり」「話を一方的に切って怒りをぶつけてくる」「一方的に怒鳴られる」という内容は、部下や後輩の気持ちを汲んだ行動と思われていないケースです。
ハラスメントのグレーゾーン問題により生産性の向上が見込めない可能性も
ハラスメントのグレーゾーン問題による弊害のひとつとして、心理的安全性が確保されず生産性の向上が見込めない可能性があげられます。
心理的安全性とは、1965年に組織心理学者のエドガー・H・シャインと経営学者のウォーレン・G・ベニスによって提唱された概念です。その後、1999年にエイミー・C・エドモンドソンが「効果的なチームにとって、心理的安全性が重要である」という検証と提言を行っています。
また、Googleのリサーチチームは、チームの効果性の向上に関する5つの因子(心理的安全性・相互信頼・構造と明確さ・仕事の意味・インパクト)のうち発表している5つのチームの効果性に影響する因子のうちで心理的安全性が圧倒的に重要であると述べています。実際にGoogleにおいて、心理的安全性の高いチームのメンバーには
・離職率が低い
・他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができる
・収益性が高い
・効果的に働くとマネージャーから評価される機会が 2 倍多い
といったポジティブな特徴が見られました(※3)。
心理的安全性については以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
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心理的安全性が確保され、ハラスメントが起きない職場をつくるために、具体的にどのような伝え方を心がけると良いのでしょうか。次の章からは、すぐに実践できるコミュニケーションのコツを3つご紹介します。
お互いに納得感を持てるコミュニケーションのための3つのヒント
上司も部下も、お互いに納得できるコミュニケーションのためにご紹介したい方法として、ここでは①傾聴 ②アサーション ③ストレスコーピングの3つを取り上げます。
傾聴
相手に自分の気持ちを伝えるためには、聴く姿勢が大切です。カウンセリングにおいても、最も基本的な姿勢は傾聴と言われています。
職場におけるコミュニケーションでは「上司が部下に対し、回答を引き出すために聞く」機会が多いといえるでしょう。一方、傾聴は「話し手が話したいことを話せるようにする」ことが目的です。特に、部下がいつもと様子が違うと感じたり、部下の不安を聞き取るときに用いると、より効果が期待できます。
傾聴の具体的な方法については、以下の記事で解説しています。
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アサーション
アサーションは、1950年代の米国で生まれた、自己主張が苦手な人たちへの心理療法から発展したコミュニケーションスキルであり 「相手との対等な関係を損なわず、自分の思いや考えを率直に伝える自己表現」のことを指します。
「本当はこうしたいのに…」と思いながら、つい相手の望みや言い分を受け入れてしまったり、自分の主張を通そうとするあまり、相手の意見には耳を傾けていなかったりという場面はありませんか?相手と自分の意見をどちらも尊重し、お互いが納得したコミュニケーションを取ることがアサーティブなコミュニケーションのポイントです。
以下では、今日から実践できるアサーションを2つご紹介します。
①「I(アイ)」メッセージで、事実と率直な気持ちを伝える
「I(アイ)」メッセージとは、「私」を主語にして、相手を攻撃したり否定したりせずに、自分の気持ちを正直に伝える方法です。「私」を主語にして表現すると、自分の考えや気持ちへの責任も生まれます。また、言いにくいことを相手に伝える場合は、事実を説明し、それに対し自分がどう感じるかを伝えてみてください。
②相手に配慮しつつ、自分の限度を伝える
対応が困難な要求をされた際に、自分の現状を明確に伝え、どうしてほしいか、なぜそうなのかをその場で相手に率直に伝えます。
アサーションを活用し、自分も相手も無理をしないコミュニケーションを心がけましょう。
ストレスコーピング
ストレスコーピングとは、ストレスの要因に対処することです。無意識に行われる防衛規制と違って、意識的に行うストレスの対処法になります。過剰なストレスが慢性的にかかると、心身への様々な悪影響が考えられるため、健康を維持するためにも上手にストレスコーピングすることが大切になります。
ストレスコーピングの方法には、情動焦点コーピングと問題焦点コーピングがあります。
情動焦点型コーピング
辛い気持ちを気分転換によって解消させるなど、考え方や感情に焦点を当ててストレスをコントロールする方法です。部下とのコミュニケーションに悩んでいるときに、同僚に相談したり、外の空気を吸ってリフレッシュするなどが情動焦点型コーピングです。応用が効きやすかったり、物事の新しい一面に気がつけたりする反面、自分自身で納得がいかない場合は効果が薄くなります。
問題焦点型コーピング
情動焦点型コーピングと違って、ストレス要因そのものを変化させたり、ストレス要因から物理的距離を置いたりと、ストレス要因に焦点を当てるコーピングです。後輩の態度がストレッサーになっているのであれば、一時的に離れた席で作業をしたり、次回の1on1だけ別の同僚に頼んでみるなどが問題焦点型に当たります。即効性があり、効果が得られやすい反面、多くの協力者や時間、費用が必要になる場合があります。
どちらのコーピングにおいても、一時的な気持ちの発散ではなく、適切なストレスコーピングを検討し実践できるようになることが大切です。ストレスコーピングの具体的な実践方法については【公認心理師監修】ストレスコーピングでよりよい組織を目指す!で紹介しています。
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相談する
役職が上がるにつれて、自身の悩みを誰かに相談する機会が減っている方も多いのではないでしょうか。一人で抱え込まないように、普段から信頼できる同僚や上司とのコミュニケーションを大切にしましょう。社内の人に相談しにくい場合は、EAPサービスや社内心理職のスタッフなど、相談窓口の利用を検討するのも良いでしょう。
まとめ
本記事では、ハラスメントの特徴を振り返るとともに、ハラスメントを生まないためのコミュニケーションのコツを紹介しました。
世代間の意識の違いなどにより伝え方にギャップが生まれ、誤解につながることもあるかもしれません。しかし、コミュニケーションの工夫で解決することも多いです。本記事で紹介した方法はどれも手軽にできるので、ぜひ実践してみてください。
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EAPはEmployee Assistance Program(従業員支援システム)の略称です。ピースマインドではサービス開始から20年以上、はたらく人の「はたらくをよくする®」ために、心理学や行動科学の視点から職場のパフォーマンス向上などに対し、解決策を提供してきました。
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参考資料
※1 日本キャリア・カウンセリング学会「キャリア・カウンセリング・エッセンシャルズ400」
※2 明るい職場応援団 「ハラスメント基本情報 ハラスメントの定義」
※3 Google『ガイド : 「効果的なチームとは何か」を知る』