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無自覚なハラスメントはなぜ起きる?企業がとるべき予防と対応を解説

職場でのハラスメントの相談数が年々増えていることをご存じですか。(※1)

ハラスメントの中には、行為者が気づいていない、無自覚なハラスメントも存在します。

無自覚なハラスメントが起きてしまう背景には個人だけではなく、組織も大きな要因となっているかもしれません。複雑な要因が混じりあって発生する無自覚なハラスメントに対し、本人にどう気づいてもらい、変化を促せば良いでしょうか。また予防や対応などはどのように進められるでしょうか。

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目次[非表示]

  1. 1.ハラスメントの現状とは
    1. 1.1. 職場のハラスメント相談数は年々増加
    2. 1.2.無自覚なハラスメントの背景には定義の難しさが関係している
    3. 1.3.一般的なハラスメントは要因が複雑に絡まり合う
    4. 1.4.組織的要因
    5. 1.5.個人的要因
  2. 2.ハラスメントが無自覚におこなわれる理由とは?
    1. 2.1.アンコンシャスバイアス(無意識バイアス)
    2. 2.2.職場で起こりがちなアンコンシャスバイアスの例
    3. 2.3.無自覚なハラスメントに気がつく機会が少ない
  3. 3.無自覚なハラスメントにどう予防&対応するのが良いか?
    1. 3.1.【予防編】予防におけるポイントと取り組みの例とは?
    2. 3.2.【対応編】対応におけるポイントと取り組みの例とは?
  4. 4.まとめ
    1. 4.1.ピースマインドの提供するサービス
  5. 5.参考資料


ハラスメントの現状とは

 職場のハラスメント相談数は年々増加

全国の都道府県労働局等の総合労働相談コーナーにおける相談数は年々増加しています。令和元年にはいじめ・嫌がらせに関する相談が87,570件寄せられました。(※1)

いじめ 嫌がらせ 相談


いじめ・嫌がらせの相談件数は、現在は低下しているものの、相談内容の件数において12年連続トップのままであり、2020年には、相談数増加を受けて同年6月から改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行され、その対策を打つことが企業に対して義務付けられました。ハラスメントは他人事ではなく、身の回りで起こりうるものであり、組織において手を打つべき課題になりました。

ハラスメントという概念は広がりを見せ、さらに相談件数も増加傾向にあることから、無意識のうちにハラスメントを行っている可能性も考えられます。 無意識なハラスメントに対しても適切に対応しながら状況改善を目指しましょう。


無自覚なハラスメントの背景には定義の難しさが関係している

そもそもハラスメントとはどのように定義づけられているものでしょうか。

厚生労働省は「職場のパワーハラスメント」として以下のように定義づけています。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。(※2)


定義づけされたことでパワハラに該当する要素が周知されやすくなった一方、そもそも定義を知らなかったり、ハラスメントとして該当しうる行為を具体的に知らないと無自覚なハラスメントの発生するリスクが高まると考えられるでしょう。



一般的なハラスメントは要因が複雑に絡まり合う

ハラスメント発生の要因は、主に個人的要因と組織的要因の2つに分けられます。
組織と個人は互いに影響し合っているため、要因が重なって発生することが多いと考えられています。

ここではそれぞれの要因を具体的に説明していきます。

図_ハラスメントの要因とは?


組織的要因

組織の文化や環境などの組織的要因がハラスメントの発生率を高める大きな要因になる場合もあります。以下ではハラスメントが起きやすい職場の特徴から、どのような発生要因が潜んでいるかを見ていきます。

厚生労働省が職場のパワーハラスメントに関する実態調査を実施しました。(※3)その結果、パワハラが起きやすい職場の特徴は以下の通りです。

図_パワハラが起きやすい職場の共通点

最も多い回答は「人手が常に不足している」で30.6%でした。
次に「コミュニケーションが少ない/ない(24.8%)」「残業が多い/休暇を取りづらい(20.2%)」という特徴が示されています。

上記の調査結果から、ハラスメントの組織的要因は「社員同士コミュニケーション量」「組織文化や価値観」「労働条件や環境」の大きく3つに分けることができます。以下でそれぞれを詳しくみていきます。


社員同士のコミュニケーション量

職場でのコミュニケーションが不足すると、お互いの業務内容や進捗状況の理解が進まず、認識の齟齬が起きる可能性があります。他の社員の業務状況やストレス状況の把握がおろそかになると、相手にとって無茶だと感じるようなことをお願いしたり、配慮の欠けた言動をとってしまう場合があります。

一方、社員同士のコミュニケーションが十分に取れている職場であれば、お互いの業務状況を把握しあえるため、仕事の分担や困っている人のサポートが効果的におこなわれます。
情報共有や業務の進行が円滑になると、生産性の向上や従業員自身満足度向上にもつながるといえます



組織の文化や価値観

「失敗が許されない職場」がパワハラが起きやすい職場の共通点として挙げられるように、組織の文化や価値観もパワハラに大きく影響します。例えば、ミスに対しその責任者を降格・異動させる文化がある場合、ちょっとした失敗が大きな恐怖になり、部下の失敗を猛烈に責めてしまう…ということも考えられます。

会社において成果を追っていくことも大切ですが、心理的安全性(組織の中で安心して自分の考えなどを発言できる状態)が失われると生産効率が落ちる可能性もあります。成果や数字のみではなく、社員同士の関わり方やコミュニケーション量にも目を向けることが重要です



労働条件や環境

長時間労働が当たり前だったり、休みが取りにくい職場だと、社員の心身疲弊にもつながります。社員の疲労が蓄積すると、お互いをサポートしたり、思いやる余裕がなくなります。

労働条件の悪化によって、社員同士のコミュニケーションが減ってしまったり、協力し合う組織文化が薄れてしまう可能性も考えられます。

従業員が互いへの気配りや配慮を持つ職場環境にするために、労働条件や環境の見直しも行っていきましょう。



個人的要因

個人の考え方、振る舞い、価値観
パワハラに関連する要因として個人の考え方や価値観、振る舞い方も挙げられます。

個人の振る舞いが職場に現れるケースとしては以下のようなものが挙げられます。

・スムーズに物事が進まない時、イライラして感情のままに行動してしまう
・会議の時に相手の意見に納得しない時に言葉遣いが荒くなりがち
・周囲に配慮することを忘れ、周りの人がいる場所で大声で部下を叱る
・部下の指導に熱心になりすぎた結果、責任が大きすぎる仕事など過大な要求をする
・部下のことを思って、説明のないまま業務変更を行う

このような振る舞いは「優越的な関係を背景とした言動」や「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の就業環境が害されるもの」と見なされることがあり、パワハラに該当する可能性があります。

また、以下のような価値観の違いがハラスメントの要因になることもあります。

・仕事に取り組む姿勢への価値観
例:成果や数値への過度なこだわりを強要する など

・職場の人間関係における考え方
 例:「後輩は先輩からの飲み会の誘いを断ってはいけない」 など

・指導方法の価値観
 例:「我慢は美徳」という新人教育の方針から厳しいノルマや仕事量を経験させる など


このように、生活環境の違いや世代間ギャップが「指導のつもりだったけれどハラスメントと受け取られていた」という無自覚なハラスメントにつながる場合があります


ストレス状態

人の考えや行動は、身体的、精神的ストレス状態によって大きく変化するものです。

過度なストレスを継続的に持ち続けると、自律神経のバランスが崩れ、身体だけではなく、心にも様々な不調をもたらします。具体的にはストレスが原因となって、めまいや頭痛、消化器官の不調といった身体的な症状から、不安や焦り、憂鬱感などの精神的な症状が現れる場合があります。

高いストレス状態で働く社員は自分の余裕がなくなり、周りへの配慮が欠けた振る舞いをしてしまう可能性も考えられます。普段穏やかな人であっても、重大な任務を遂行していたり、何かしらの大きなストレスを抱えている場合は少し攻撃的になったり、冷たい態度をとってしまうことがあるかもしれません。

これらへの対処の一つとして、本人が自分自身で実践できる認知行動療法などセルフケアを活用しながら状態改善に向かうことも可能です。認知行動療法の詳細やメリットについては、以下の記事を参考にしてみてください。


\クリックして記事を確認する

  職場のメンタルケアはできる!認知行動療法を徹底解説 今回の記事では、テレワーク下でも実践できるセルフケアとして、認知行動療法について詳しく解説していきます。 この記事を読むと ・認知行動療法の考え方、効果 ・すぐに実践できる認知行動療法 がわかります。 ピースマインド株式会社


このように、ハラスメントが起きてしまう理由や背景は一人一人の個人の価値観、振る舞い方、職場環境や社員同士関わり方などが大きく関わっています。ハラスメントはこれほど複数の要因が重なっているものであると知ると、無自覚なハラスメントが起こる危険性がどのような場所にも潜んでいるとわかります。

では、ハラスメントが無自覚におこなわれる理由には、どのようなものが挙げられるのでしょうか?



ハラスメントが無自覚におこなわれる理由とは?

以下ではハラスメントが無自覚におこなわれる理由の一つとして、個人の価値観に関連する、アンコンシャスバイアスをご紹介します。

アンコンシャスバイアス(無意識バイアス)

アンコンシャス・バイアスとは「無意識の思い込みや偏見」のことで、自分経験や価値観、見聞きした情報から偏った見方で考えることを指します。

アンコンシャスバイアスは、人間が情報処理を効率化させて生きていく上で必要なものであり、誰にでもあるものです。しかしながら以下のように、ハラスメントにつながる可能性を持つアンコンシャスバイアスもあります。


職場で起こりがちなアンコンシャスバイアスの例

職場で起こりがちなアンコンシャスバイアスの例として、以下のようなものがあります。

図_	職場で起きがちなアンコンシャスバイアスの例

これらの例のように職場で起こるアンコンシャスバイアスでは、従業員の能力や仕事への取り組みの姿勢が判断されることがあります。また、任される業務や人事評価に影響が出る可能性が考えられます。

職場でアンコンシャスバイアスが日常的に起きると、社員それぞれが自分の意見を主張するなどの積極的なコミュニケーション機会が減少します。そうなると社員同士が相互理解を深めたり、信頼関係を構築することが難しくなります。

お互いの意見が尊重されず、優位な立場の社員が一方的に主張を重ねてしまう関係性は無意識なハラスメント生まれやすい状況だと考えられます。



無自覚なハラスメントに気がつく機会が少ない

これらの無意識な押し付けや決めつけにそもそも気がつく機会がないことも無自覚なハラスメントを許してしまう要因になります。

教育係や管理職などの場合、キャリアが上がるにつれて、本人のやり方に意見をいう人や気軽に相談できる相手がいなくなることも背景にあると考えられます。

このように、人それぞれ異なる考え方やバックグラウンドから自分なりの解釈をしていることに気づくことは難しいことです。だからこそハラスメントに対して会社全体で気づき、当事者に気づいてもらうための対策を打つ必要があります。以下でその方法について解説していきます。



無自覚なハラスメントにどう予防&対応するのが良いか?

ここでは予防と対応に分けて押さえておきたいポイントと具体的な取り組みについて説明します。それぞれのポイントは以下の通りです。

図_無自覚ハラスメントへの予防・対応ポイント

現在の職場での業務状況や心境、関係性を把握すること無自覚なハラスメントを予防する上で押さえておきたい前提です。そこから意識せずにとっている自分の行動を振り返り、気づいてもらうことが重要です。ハラスメントの存在に気づいたときには適切な行動変化を実践するよう促していきましょう


【予防編】予防におけるポイントと取り組みの例とは?

ハラスメントが起きない職場づくりや予防策として、2つのポイントと施策例をご紹介します。


予防する上でのポイント

・職場状況を定期的かつ客観的に把握する
・パワハラ等に関する個人の認知の差に気づく機会を設置する


無自覚なハラスメントを予防するためには、職場の現状を客観的に把握し、ハラスメントの危険性が潜んでいる個人の認知の差へのアプローチを職場状況に合わせて実施していきます。


施策例①職場の全社調査

無自覚なハラスメントの実態や潜在する危険性に気づくため、職場の実態を把握することが大切な一歩となります。

図_全社調査の特徴とメリット

全社調査によって社内全体を一斉に調査することができます。匿名性が担保されると、よりリアルな声が集まりやすくなります。定期的な実施で全社的にパワハラなどの現状を報告できる機会を増やすことも可能です。

実施する上でのポイントとしては厚生労働省のパワハラ概念をベースにしながらも、パワハラ認識個人差も含めて測定することです。その両面を測れるような尺度を用いることで職場の実態を客観的に判断しやすくなるでしょう。


図_全社調査でのパワハラ尺度



施策例②コーチング形式の教育施策
無自覚なハラスメントへの取り組みとして、個別の教育施策も可能です。1対1で実施することにより、個人の認識に対して効果的にアプローチができます

しかしコストと手間がかかるため、社内で並行して実施するハラスメント防止研修等との使い分けが必要です。



【対応編】対応におけるポイントと取り組みの例とは?

ハラスメントの行為が発覚した場合の対応として、2つのポイントと具体的な施策の例を紹介します。


ハラスメント事案に対応するうえでのポイント

・ハラスメントをうけた人には心理的な支援を最優先する
・ハラスメントの行為者には支援を通じて行動変容を促す


相談者と行為者それぞれの立場や状況に合わせた個別具体的なアプローチが重要になります。以下で取り組みの例を見ていきます。

施策例③相談窓口の設置と相談者への心理的なケア
ハラスメントの早期発見、早期対応するための窓口の整備はどの企業においても求められます。ただ設置するだけではなく、相談窓口の認知向上や相談への心理的ハードルをなくすことが必要になってきます

また、相談者のケアについては、メンタル不調やより深刻な状態につながることも考えられるため、優先度高く取り組む必要があります。

ここで大切なことは本人の気持ちを受け止めた上で、本人の今後働き方やパフォーマンスをどう回復していくか、という建設的な対応です。ゴールは「加害者との紛争」ではなく、相談者自身の状態回復や職場環境を改善していくことです。そのゴールに向かい、必要に応じて産業医、保健師、カウンセラーなどの専門家の協力を得ながら具体的な支援をしていきます。


図_相談者対応におけるゴール設定


施策例④専門家による行為者の行動変容支援
ハラスメントの行為者に対しては必要な処分や指導と併せて、事象の振り返りと行動変容の支援ができると、再発予防にも繋がります。この施策を進めていく上で大切なポイントは、2つあります。


1つ目は現状の職場課題やリスクを行為者自身が受け止めることです。

周囲の社員からヒアリングしたり、報告を受けているリアルな声や現場の状況について、行為者に伝えます。それによって生じる可能性のあるリスクを提示し、自身の行動変容の必要性を理解してもらうことが重要です。その現状を吟味し、本人が今後どう行動を変えるべきか共に考える態勢作ることにつながります

2つ目は本人自身の行動への動機や気持ちを受け止めることです。

良かれと思ってとっていた行動だったり、熱心さが裏目に出てしまった行為の可能性もあります。感情を理解しながら、その思いを示す別の方法をともに考えていくことが重要になります。

問題行動の改善には本人が納得して取り組むための会社の枠組みや強い動機づけが必要になります。行為者の気持ちを受け止めた上で、その意義を理解してもらうことで行動の変容も促されます



まとめ

本記事では無自覚なハラスメントが起きる要因やそれへの対策について解説しました。

ハラスメントが起きてしまう理由や背景は本人だけではなく、組織や関係性など会社での複数の要因が重なっています。無自覚なハラスメントに本人が気づくことが難しかったり、相談をすることへのハードルが高い場合もあります。

だからこそ会社全体で社内環境の現状を把握し、ハラスメントを起きにくい環境を作ることが大切です。万が一、ハラスメントが起きてしまった場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。被害者へのケアはもちろん、再発防止の観点からは加害者の行動変容を十分に行うことが重要です。日頃からのハラスメント防止を促進する取り組みに加え、ハラスメント相談窓口の利用促進や関係する機関との連携を定期的に確認するとよいでしょう。


ピースマインドの提供するサービス

ピースマインドは、ハラスメントの「準備」「施策」「対処」の各ステップを支援する様々なサービスを用意しています。

ハラスメント防止のための措置義務を遵守するためのサポートを行う「職場のハラスメント対策支援サービス」や職場のパワーハラスメントのリスクを把握し、予防するための新尺度である「パワハラ・インデックス」等を活用した職場のハラスメントの予防・解決支援をご提供しております。

その他にも社員教育・サポート、再発防止のための事後課題解決サポート、ハラスメント相談窓口などのサービスもございます。ハラスメント対策に課題をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。


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参考資料

※1 令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況 
※2 明るい職場応援団 「ハラスメント基本情報 ハラスメントの定義」
※3 平成28年度職場のパワーハラスメントに関する 実態調査報告書

後藤 麻友(ごとう まゆ)
後藤 麻友(ごとう まゆ)
ピースマインド株式会社  社員支援コンサルティング部 部長 EAPスーパーバイザー 公認心理師 臨床心理士 国際EAPコンサルタント(CEAP)  臨床心理学の修士号を取得後、ピースマインド株式会社に入社。EAPコンサルタントとしての臨床業務の傍ら、研究、研修、サービス開発にも従事。現在は、主にコンサルタントのマネジメントや育成支援を行っている。

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