高ストレス者の放置がリスクに?ストレスチェック実施前後のポイントを解説
ストレスチェックを行った企業から、「誰(人・組織)に対して、どのような施策を打つべきかわからない」といった声がしばしば寄せられます。
「ストレスチェックの結果はどのように扱ったらいいのだろうか」
「ストレスチェックを実施して高ストレス者がいることがわかったけれど、どんな対応をするべきなのだろう」
このようなお悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。
そこで、今回はピースマインドが推奨する、高ストレス者への効果的な対応について、「個人」と「組織全体」の2つの視点からご紹介します。
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高ストレス者への適切な対応が組織の利益に影響を与える
高ストレス者を放置することは企業のリスクになる
厚生労働省のストレスチェック制度の導入マニュアルによると、高ストレス者とは、「ストレスの自覚症状が高い者や、自覚症状が一定程度あり、ストレスの原因や周囲のサポートの状況が著しく悪い者」のことを指します(※1)。高ストレス状態が続くと、メンタルヘルス不調に陥るリスクや休職、離職に繫るリスクが高まります。
例えば、厚生労働者の『こころの耳』では、うつ病の症状について「気分の落ち込みや意欲の低下にとどまらず、脳の機能全体が落ちることによる集中力・記憶力・判断力の低下や、さまざまな身体症状」と定義しており(※2)、このことからも、うつ病などのメンタルヘルス不調になってしまった場合、仕事を効率的に行うことが困難になる可能性があります。
さらに、ピースマインドと九州大学が行った協働調査より、はたらく人が抱えるストレスに伴う経済的損失は、男性の場合、生涯で平均6,000万円の損失になるという結果があります(※3)。
出典:【調査結果】はたらく人が抱えるストレスに伴う経済的損失は、男性で生涯平均約6000万円に
このように、職場へのリスク、企業側の経営リスクなど、様々なリスクが生じる可能性を考えると、高ストレス者への対応は早急に行う必要があるといえるでしょう。
また、ストレスチェックを行う目的を今一度振り返ってみると、「従業員が自分自身のストレスを把握し、事業者は職場の改善に繋げ、職場におけるメンタルヘルス不調を未然に防ぐこと」とされています(※4)。
つまり、高ストレスの結果は必ずしも従業員単独の問題ではなく、職場全体の問題であることも多いため、企業側の取り組みが非常に重要になってくるのです。裏を返せば、高ストレス者へ適切な対応を行うことで、職場全体のメンタルヘルスをさらに向上させることが期待できます。
一方で現状は高ストレス者への対応が不十分
しかしながら、現状を見ると高ストレス者への対応は十分といえません。ピースマインドが行った調査によると、高ストレス者と判定された方のおよそ半数は2年連続で高ストレスの判定を受けています(※5)。このことから、ストレスチェックを実施後、多くの高ストレス者が適切なサポートを受けられていない可能性が示唆されます。
また、2015年の労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の職場はストレスチェックの実施に加え、高ストレス者が希望する場合は、医師による面接指導を実施することが義務付けられています。医師面接指導とは、産業医などの医師との面談のことであり、高ストレス者は任意で受けることができます。ストレスの要因や周囲の環境などを把握することで、ストレスへの予防や対処などの支援を行うことが目的です。
しかし、近年の高ストレス者が医師面接指導を受ける割合は8.2%と低い水準にあります(※5)。
医師面接指導を阻む要因としては、結果が会社側に知られてしまう不安や、ストレスチェック後の職場体制が関係しています。具体的には、本人が希望しなければ、医師面接指導が実施されない体制である等、高ストレスの結果に対し、職場が積極的に関与しないケースが考えられます。しかし、面接を行うことで、専門家のサポートを受けながら課題に対応することができるため、本人が希望しない場合でも面接実施を勧めることが重要です。
このようにストレスチェック実施後、その結果を活用できていないケースは多いです。そのため、今後は得られた結果を基に、有効な対策を行うことが求められています。以下では、ストレスチェック実施前後に行いたい取り組みについて、アプローチ先を高ストレス者個人と、組織全体とに分けて見ていきたいと思います。
ストレスチェック実施前後に高ストレス者へアプローチすべきこととは?
高ストレス者へ医師面接指導をすすめる
ストレスチェックの結果は本人に対して個別に通知され、企業や担当者は本人の同意なく結果を知ることはできません。従って、本人が医師面接指導を希望しない場合には、適切な対処が困難になります。そのため、高ストレス者個人に向けた取り組みを促進させるためには、医師面接を受けやすくするための環境づくりが効果的です。
高ストレス者が医師面接指導をためらう大きな理由のひとつに、「結果を企業側に知られてしまうのが不安」という懸念があります。そのため、環境づくりの際は「医師面接に行っても不利益は被らないこと」や、「医師面接を受けることのメリット」を社内全体にアナウンスすると良いでしょう。これにより、本人の「医師面接を受けよう」という意思決定を促進できる可能性があります。
医師面接の申し出は、結果が通知されてから約1ヶ月以内に行う必要があるため、理想は結果を通知する時、遅くても1週間前までにはアナウンスを行いましょう(※1)。
高ストレス者のパターンに合わせて解決策を講じる
医師面接指導以外にも、高ストレス者の典型的な特徴やパターンを知ることで、対応に生かせる場合があります。
高ストレス者は、その方の特徴や外的環境に応じて典型的ないくつかのパターンに分類することができます。その中でも特に多く見られる高ストレス者の2つのパターンの特徴と、それぞれの対処方法をご紹介します。
①コミュニケーション不全型高ストレス者群
<特徴>
主に上司とのコミュニケーションに課題があると思われるパターンで、職場環境とコミュニケーションスキルが主な要因と考えられます。
<対応>
異動やテレワークの導入などで職場に適応するまでに時間がかかったり、上司と部下のコミュニケーションが機能していない場合には、コミュニケーションの量を増やし、その質を向上できるように心がけましょう。例として「小さなコミュニケーションを増やす」、「定期的に質の高い1on1を実践する」などがあります。
一方で、部下の相談スキルに課題がある場合、または上司側の配慮が不足している場合には、傾聴やIメッセージなどのコミュニケーションスキルの向上が必要です。
コミュニケーションの具体的な方法については以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
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②ワーカホリック型高ストレス者群
<特徴>
このタイプの方は、負荷が高い仕事にやりがいを持って取り組むものの、責任感から強いストレスを感じるパターンで、「自ら仕事を抱え込んでしまうこと」「企業側がストレスマネジメントを軽視していること」が主な要因と考えられます。
<対応>
仕事を優先し、自分のケアが後回しになっている場合には、本人がストレスマネジメントやセルフケアの重要性を理解し、実践することが大切です。そのスキルの獲得にはストレスマネジメント研修を活用すると良いでしょう。
また、安全配慮義務の観点から上司が部下の心身をマネジメントすることが大切になります。しかし、部下がこのワーカホリック型のタイプである場合、上司が部下の不調に気づけないことがあり、企業としてのリスクにつながる可能性があります。そのためマネジメント研修や、ライン研修の活用など企業が上司をサポートする体制を整えることが重要です。そして上司は、部下が自主的に仕事のボリュームを調整できるような働きかけや、上司に状況報告や相談を行いやすい環境づくりなどを心がけましょう。
ストレスチェック実施前後に組織全体で取り組むべきこととは?
ストレスチェック実施後、高ストレス者や、ストレスを感じている人が多いことが確認された場合、医師面接指導を推奨するだけでなく、組織全体の改善活動を行うことをお勧めします。
その①職場環境の改善プロセスをPDCAサイクルで考える
職場改善活動はメンタルヘルス対策の一次予防のうちの一つです。職場の物理的・また心理社会的環境を改善することで、職場におけるストレス要因を低減し、メンタルヘルスの向上につなげることを目的としています(※6)。
目的を達成するためには、ストレスチェックの実施前から実施後、さらに次のチェックに向けたフォローアップといった全体像を考えることが重要です。
ここではPDCAサイクルに沿った全体の流れをご紹介します。
まず「Plan」では、ストレスチェック実施の計画を立てます。
計画については、次にご紹介する「ストレスチェック実施前の準備」で、より詳細にご説明します。
次に「Do」として実際にストレスチェックを実施し、データを収集します。
そして「Check」で結果の分析を行うことで組織の傾向をつかみます。改善が必要な部分を把握し、仮説を立て、ヒアリング調査によって仮説を確認します。
最後に「Action」で仮説に応じた改善策をもとに職場改善活動を実施し、フォローアップ等を行います。
この一連の流れを繰り返し行うことで、より効率良く職場改善活動を行うことが可能になります。
その②ストレスチェック実施前の準備が活用の鍵を握る
職場改善活動において、より効果を高めるには「解決したい課題は何か?」を準備段階で明確にすることが重要になります。
解決したい課題を考え、その内容を明確化することで、ストレスチェックに追加すべき項目や分析手法などを判別できるからです。この準備は上記のPDCAサイクルの「Plan」に当たります。
ここでのポイントとして、課題を検討する前にPDCAサイクルを回してしまうと、項目の変更・追加が困難になるため、必要な項目に抜けがないように、取りたい情報は実施前にリストアップすると良いでしょう。
ストレスチェックで確認したいことを考える準備として、以下の例を参考にしてみてください。
「中途入社者の早期退職」が課題の場合、企業が確認したいこととして、「新卒と中途ではストレス度に違いがあるのか」といったことがあげられます。そこで、ストレスチェックの新たな項目として「入社経路」や「在職期間」などを入れることによって、属性別に分析することが可能になり、その結果をもとに中途入社者の早期退職防止の対応策を考えることができます。
このように、ストレスチェックの結果を有効活用するためには、ストレスチェック実施前の入念な「準備」が非常に大切だといえます。
ストレスチェック分析の具体的な方法については以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
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その③職場改善につなげるためには上層部への報告が重要
ストレスチェックの結果から、職場改善活動の実施につなげるまでの取り組みの一例として、報告会を設けることがあります。ここからは、ステップに分けてそれぞれ解説します。
⒈「事務局報告会」の実施
ストレスチェック実施後に「事務局報告会」を設けます。この報告会では、ストレスチェックの分析結果をもとに、職場改善活動の大枠をディスカッションし、どのような施策を行うかを考えます。
⒉「経営層向けの報告会」と「管理職向けの報告会」の実施
次に「経営層向けの報告会」と「管理職向けの報告会」を行います。「経営層向けの報告会」によって、経営層がメンタルヘルス問題を重要だと考える姿勢をとることで、職場改善活動の推進が後押しされると考えられます。
さらに「管理職向けの報告会」を行うことは、現場での推進力を高めるのに効果的です。現場でどのような問題が起きているかを把握し、適切な施策を実施することに繋がります。
⒊「個別アプローチ」と「組織的アプローチ」の実施
以上の報告会をふまえた上で実施する施策には、「個別アプローチ」と「組織的アプローチ」があります。
<個別アプローチ>
個別アプローチとは「個人への対策」のことであり、具体的には、相談窓口の設置(電話相談、産業保健スタッフへの相談など)が挙げられます。
<組織的アプローチ>
組織的アプローチとは、部署など「組織への対策」のことであり、具体的には、管理職向けの集合研修や現場の従業員に対するヒアリングなどが挙げられます。
どちらか一方でも有効ですが、「個別アプローチ」と「組織的アプローチ」の2つのアプローチを同時に行うことで、相乗効果が期待できると考えられます。
以上の流れが、ストレスチェック実施後の組織としての取り組みの一例です。
ストレスチェックをより効果的に活用するためには、職場改善活動の全体像を把握し、しっかりと実施の準備を行うことが大切になります。つまりストレスチェックだけでなく、その結果を反映させた取り組みが重要になります。
まとめ
今回は、ストレスチェックを実施した後の「高ストレス者個人へのアプローチ」と、「組織全体での取り組み」についてご紹介しました。
ストレスチェックは、従業員自身が自分のメンタルヘルスを理解し、セルフケアに役立てることが目的ですが、企業側がそのデータを分析し、分析結果を職場改善活動に適切に活用することも重要です。
今回ご紹介した方法を参考に、高ストレス者を減らし、働きやすい職場を目指していきましょう。
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参考文献
※2:厚生労働省 こころの耳 2 精神障害の基礎知識とその正しい理解
※3:ピースマインド 【調査結果】はたらく人が抱えるストレスに伴う経済的損失は、男性で平均約6000万円に
※5:ピースマインド 2020年度ピースマインドストレスチェック白書