【人事必見】不祥事対応事例から紐解くトランジションの際に求められる従業員への心理ケア
<概要・導入>
企業は、自然災害(地震・台風・パンデミック・人的被害など)や事故・事件といったさまざまな惨事に直面する可能性があります。これらの出来事は「クライシス」と呼ばれ、企業にとって重大なリスクとなります。
このようなクライシスに備えるために、企業は「リスクマネジメント(クライシス発生前の体制づくり)」と「クライシスマネジメント(クライシス発生後の緊急対応)」を実施する必要があります。
本記事では、クライシスの中でも、特に不祥事をきっかけに発生する大規模なリストラや配置換えなどのトランジションの際に企業が求められる対応と、従業員の心のケアに焦点を当てて解説します。
目次[非表示]
- 1.トランジションとは?
- 1.1.トランジションの定義
- 1.2.職場におけるトランジションとリスク
- 2.【不祥事から紐解く】トランジションの対応
- 2.1.ご依頼の背景
- 2.2.会社の不祥事発覚後の従業員からのご相談
- 2.3.従業員へのケア-EAPコンサルタントの役割
- 3.トランジションへの対応
- 3.1.不祥事からのトランジションで起きること
- 3.2.会社として求められる対応
- 4.まとめ
- 5.ピースマインドのクライシス支援
- 6.参考文献
トランジションとは?
トランジションの定義
「トランジション」は、人生やキャリアにおける「転機」「転換点」や「移行期」を意味します。
転機は、結婚、定年といった「予測していた転機」、自身または身近な人の予期せぬ傷病や死、自然災害、突然の事業所閉鎖による失業などといった「予測していなかった転機」、そして、自信があった昇進試験に不合格、予測に反して昇進しなかった、或いは異動となったなど「期待していなかったものが起こらなかった転機」、これら3つに分類されます(※1)。
人生やキャリアの節目のみならず、とりわけ、近年の急速かつ大きな社会情勢の変動、そして大きな労働環境変化をもたらしたコロナ禍、気候の変動、自然災害といった環境変化が大きく、不確実性が高くなっています。こうした外的要因によってもたらされる「予測していなかった危機」、つまり、「不測の事態」に関しては、「転機=危機(クライシス)」とされ、大なり小なり「危機」に直面し、我々の心身に様々なインパクトを与えています(※2)。
職場におけるトランジションとリスク
職場におけるトランジションとしては、主に3つが挙げられます。
1つ目は、キャリアの変化によるトランジションです。
・メンバーからマネジメント層への昇進
・新人からスペシャリストへの転換
ポジティブな変化も含まれますが、環境や役割の変化によるストレスが気づかないうちに蓄積されていることがあります。
2つ目は、ライフスタイルの変化によるトランジションです。
・結婚/出産・育児/子どもの自立など家族生活における変化
・家族の介護や傷病ケアに伴う日々の習慣の変化
私生活の変化により、仕事に対する考え方や働き方が変化することがあります。その過程で、今まで当たり前にやっていたことができなくなるなどの葛藤を感じることもあります。
3つ目は、業績不振・不祥事などやむを得ない事情によるトランジションです。
・事業所閉鎖、人員削減、大幅な配置換え
・社会的批判が寄せられる事案の発生
人員削減や配置換えといった施策実施の有無に関わらず、出来事をきっかけに自身のキャリアへの不安や会社への不信感が表面化することがあります。
トランジションのケアが十分になされないことで、変化への適応がスムーズにいかないことがあります。そして、「上手くいかないのは自分のせいだ」といった過度な自責感や「環境や周囲が足を引っ張っている」といった怒りが、「職場での関わりを拒否する」「攻撃的な態度を取る」など防衛的な反応を生み出すこともあります。反応をきっかけに心身健康リスクと、心理的安全性の低下が生み出されることから、二次的リスクを生じさせるリスクもあります。
企業としては、事業の継続を担う従業員のパフォーマンスを維持する必要がありますが、このような状況で心理的安全性はもとより、エンゲージメントの低下、ひいては事業生産性の低下は避けられず、長期化する恐れもあります。従業員のケアを行うことで、パフォーマンス低下のインパクトを弱め、より早期に通常の業務遂行が可能な状態へと戻すことが期待できます。
【不祥事から紐解く】トランジションの対応
組織としてのリスクを低減するためには、トランジションが発生した、あるいは発生する可能性がある状況での適切なケアが必要になります。不祥事をきっかけに、トランジションの不安が高まった組織に向けたご支援事例をもとに、対応のポイントをご紹介します。
※相談内容を元にプライバシーに配慮して修正を加えてまとめています。
ご依頼の背景
お問い合わせ頂いた際には、「不安感が蔓延している従業員へ具体的な支援ができないか」「早期対応が必要な従業員が適切な心理的ケアに繋がるような手当ができないか」といった課題を抱えていらっしゃいました。会社としては、社内ではリソースが不足しているため、外部EAPが介入することで、組織・従業員が早期に通常運転に戻ることを目指すことが大きな目的でした。
会社の不祥事発覚後の従業員からのご相談
これまで当たり前だった環境や日常が大きく変化することで、その出来事に直面した従業員の不満やストレスが表面化し、疲労感や無力感、怒り、自責を強く感じることがあります。しかし、社内ではそれを吐き出すことができず、不安を募らせた結果、パフォーマンスに影響を与えることも少なくありません。
ご来談された従業員からは、「会社に不信感を持っている」「今後のキャリアを含め、実生活への不安がある」「家族に心配されている、周りに知られたくない」など様々なご不安の声が寄せられました。
共通している点としては、以下3点です。
・会社への不信感が生まれる
・これまで抱えてきたストレスが顕在化する
・将来やこの先の見通しへの不安を抱く
不祥事をきっかけに職場の心理的安全性が低下し、また、インパクトが多岐におよび、仕事のみならず、私生活、家族にも影響を与えることから、従業員のエンゲージメントやパフォーマンスが低下することがあります。また、「この会社はもうダメなのではないか」「働き続けられないのではないか」など、起きていないことへの不安感が強まる傾向もあります。
従業員へのケア-EAPコンサルタントの役割
そもそも不祥事が起こる前から心理的安全性が低い職場である場合や不祥事を契機にギスギスした雰囲気になっている状況では、社内で相談をすること自体が難しいでしょう。
さらには、不祥事が発生した部門をはじめ、内外的に対応をする、法務やコンプライアンス、そして、人事労務部門など、本来社員をケアする部門課員たちも当事者ながら、対応でひっ迫した状態となります。
そのため、従業員へのケアについては外部リソースを活用するとよいでしょう。心理の専門家であるEAPコンサルタントは、ご本人の抱えるリスクを把握し、適切に対処するだけでなく、心理教育を通して変化への向き合い方についてもお伝えすることができます。
傾聴
まずは、ご相談者のお話を傾聴し、受け止めます。不祥事発覚後は、ギスギスした雰囲気になりやすく、立ち話程度であっても社内では話すことができず、家族や友人にも話せないといったことから、ご相談者の中には、これまで誰にも打ち明けられず抱え込んでいたという方もいらっしゃいます。そのため、まずは耳を傾けしっかり話を聴き、信頼関係を醸成したうえで、不安を整理し、前に進むための道筋をつけるお手伝いをします。
リスクアセスメント
次に、「日常生活が送れているのか」「仕事に取り組むことができる状態なのか」といった観点でリスクアセスメントを行います。不祥事が起きた部門の方など、出来事との距離感が比較的近い方の中には、「自分が悪いのではないか」と強い自責感を感じる方もいます。睡眠の乱れ、休養不足、食欲の低下、希死念慮などの気分の変調、これらの有無、程度を確認し、その中で、従業員にとってのリスク、またそれが企業にとってのリスクとなりうると判断した場合は、適切なケアや治療、サポートが可能な専門家、企業の人事労務、健康管理窓口との連携をすることもあります。
心理教育
心理教育の中では、大きな変化に対する反応として、ご相談者の感情や不安は当然のものであることをお伝えします。そのうえで、今後どのような心理的変化を辿るのか、それに対してどのような対処ができるのか、についてもお伝えします。
トランジションへの対応
不祥事からのトランジションで起きること
不祥事によって生じる不確実性に触発されることで、トランジションに繋がるケースは少なくありません。トランジションでは、担い手である従業員それぞれが「大きな変化」を受容し、「変化へ適応する」ことが求められます。
適応の過程は、人それぞれであり、その過程でご自身が日頃抱えていたストレスや不満が表面化することもありますが、それも永続的なものではなく、受容し適応する中でのひとつのプロセスといえるでしょう。しかしながら、その方が元々抱えている課題がある場合には、適応までに時間を要する場合やサポートが必要な場合があります。
会社として求められる対応
会社としては、「社内のコミュニケーションの風通しのよさがあるか」心理的安全性の点検をすると共に、トランジションによってさらに低下し得る心理的安全性を考慮した対処方策が必要でしょう。特に会社として気を付けたいのは、社員と継続的にコミュニケーションをとり、社員の状況を確認することです。先々の予測が難しい状況が続くなか、会社の状況、方針などその都度伝えていくことで会社への不信感を軽減することができます。
一方、事態の収束にあたる管理職や人事もまた同様に心理的・身体的影響を受けています。責任を背負いすぎず、自分のペースを保ち、対応可能な限度を知ることが重要です。また、従業員ひとりひとりに向き合い、寄り添うことが難しい状況にある際には、外部リソースを活用することがおすすめです。
まとめ
このような状況下では、事態の収束にあたる管理職や人事もまた同様に心理的・身体的影響を受けています。責任を背負いすぎず、自分のペースを保ち、対応可能な限度を知ることが重要です。また、従業員ひとりひとりに向き合い、寄り添うことが難しい状況にある際には、外部リソースを活用することがおすすめです。
ピースマインドのクライシス支援
ピースマインドでは、予防からクライシス発生後までトータルでサポートするクライシス支援サービスをご提供しています。EAPコンサルタントが迅速に対応し、個人から組織まで多面的なサポートを行います。従業員のクライシスケアでお困りの際には是非ご相談ください。
参考文献
※1 ナンシー・K・シュロスバーグ著 武田圭太、立野了嗣訳(2000)「『選職社会』転機を活かせ」
※2 ウィリアム・ブリッジズ(2014) 「トランジション 人生の転機を活かすために」