【クライシス-災害】起こり得る影響と企業に求められる従業員の心のケアの方法とは?
企業は、自然災害(地震・台風・パンデミック・人的被害など)や事故・事件といったさまざまな惨事に直面する可能性があります。これらの出来事は「クライシス」と呼ばれ、企業にとって重大なリスクとなります。
このようなクライシスに備えるために、企業は「リスクマネジメント(クライシス発生前の体制づくり)」と「クライシスマネジメント(クライシス発生後の緊急対応)」を実施する必要があります。
本記事では、クライシスの中でも、特に自然災害発生時に企業が求められる対応と、従業員の心のケアに焦点を当てて解説します。
目次[非表示]
- 1.クライシスマネジメントとは
- 2.災害時の影響
- 2.1.被災者に起こる心身への影響
- 2.2.会社に起こる影響
- 3.災害のクライシスマネジメント
- 3.1.ステージ1「準備段階」
- 3.2.ステージ2「発生時の対応」
- 3.3.ステージ3「フォローアップ」(被災後~復興)
- 4.ピースマインドのサービスのご紹介
- 5.まとめ
- 6.参考文献
クライシスマネジメントとは
日本では、毎年各地で様々な自然災害が起こっています。実際に自然災害が起こると、会社や従業員にはどのような影響があるのでしょうか?また、企業としてどのような対処ができるでしょうか?
クライシスが発生すると、「組織」と「従業員」の双方に大きな影響を及ぼします。その影響を放置すると、心身の不調による従業員の休職や離職などの二次被害に発展するリスクも高まるため、迅速かつ適切な対応ができるよう、平時からの備えが重要です。
ここではまず、クライシスマネジメントの基本的な流れについて説明します。
災害を含む様々なクライシスの予防や発生時に、企業に求められる対応は以下の3つのステージ(準備段階、発生時の対応、フォローアップ)に分かれます。
平時からの準備段階、クライシス発生時、そして発生後のフォローアップにおいて、それぞれのステージで必要な支援内容を確認していきましょう。
ステージ1「準備段階」
この段階は、クライシスマネジメントの基礎となる部分です。クライシスが発生前の平時において、クライシス発生時を想定した体制の確認を行い、従業員へのメンタルヘルス教育や支援を実施します。
ステージ2「クライシス発生時の対応」
緊迫した状況下では、迅速かつ適切な対応が求められます。クライシスは従業員個人と組織全体に影響を与えるため、優先順位をつけながら、広範囲かつ個別のケアを進める必要です。特に心理的ケアには専門性が求められる場合が多く、必要に応じて外部の専門家を活用することが重要です。
ステージ3「フォローアップ」
クライシス発生後の回復期においても支援は欠かせません。
PTSDやアニバーサリー(災害発生日などに再び心理的な不調が現れる現象)などが発生する可能性があるため、定期的なメンタルケアを通じてこれらを予防しましょう。
災害時の影響
被災者に起こる心身への影響
心理ケアの重要性
対応が難しい心理ケアですが、適切な心理ケアの介入がクライシス後の早期回復の鍵を握ります。災害後の心理的変化は、茫然自失期・ハネムーン期・幻滅期を経て、再建期という回復に向かいますが、ある時点で二極化することが知られており、自然回復が難従業員には個別の支援が必要です(※1)。
災害直後の数日間は「茫然自失期」と呼ばれ、心理的衝撃で混乱やぼんやりとした状態が現れます。不安や緊張、不眠、食欲不振などの症状が見られることもあります。その後、数日から数週間が経つと、助け合いの気持ちが高まり、支え合う活動が活発になります。この時期は「ハネムーン期」と呼ばれ、多くの人が協力し合い、時には高揚感を感じることもあります。
しかし、1か月から数か月が経つと、被害の大きさや復興の難しさを実感し、「幻滅期」に入り、喪失感や自責感、怒り、罪悪感などが生じやすくなります。さらに数か月が経過すると、心理状態は徐々に落ち着きますが、一部の方は生活の変化や新たなストレスに直面します。
つまり、二極化が見られる「幻滅期」までに適切なクライシスマネジメントが行われるかどうかが、被災者が「再建期」に向かえるかの重要なポイントとなります。心理ケアが、企業や従業員個人の早期回復において大きな役割を果たすのです。
被災後によく見られる心身の反応「トラウマティックストレス」
「トラウマティックストレス」とは、災害や事故、事件など、日常生活では想像できないほどの凄まじい体験がもたらす重い精神的負担を指します。こうした体験が精神的衝撃を引き起こし、強い恐怖や無力感など、さまざまな心身の不調を引き起こすことがあります(※2)。
恐ろしい災害や事件を経験した後に強い感情が現れるのはよくあることで、これは正常な反応です。これらの感情は数時間から数日、あるいは1ヶ月以上経過してから現れることもあります。トラウマティックストレスによる心身の反応には、以下のような症状がみられます。
会社に起こる影響
災害時、会社全体にはどのような影響があるのでしょうか。
まず考えられるのは、被災によって会社の機能が大きく損なわれ、組織体制に深刻な影響が生じることです。そのため、組織体制の崩壊しないよう、災害前からどの部署や人員が中心になって対応するかを決めておくことが重要です。
さらに、被災した設備や組織体制が再稼働しても、元通りに復旧できるとは限りません。従業員は多様な形で被災しているため、組織が復旧できたとしても、従業員が心身ともに健康な状態で働けるとは限らないからです。会社全体の復旧と従業員のケアやサポートを同時に進める必要があります。
このように、被災後のさまざまな影響に対処するためには、特に「心理ケア」が重要です。しかし、心理ケアに悩む企業も多く、災害発生から復興にかけての期間は、組織再建や事業の継続に集中せざるを得ないこともあります。また、心理ケアに必要な専門知識の高さから、どのように進めるべきか迷い、対応が遅れるケースも見られます。そこで、本記事では、心理支援に焦点を当て当て、災害発生時のクライシスマネジメントの進め方を解説します。
災害のクライシスマネジメント
ステージ1「準備段階」
災害発生に備えて、以下のようなことに日ごろから取り組んでおきましょう。
・セルフケア知識の周知:従業員に対し、セルフケアの方法を教育します。
・避難経路と災害物資の準備:日ごろから避難経路を確認し、必要な物資を整えます。
・コミュニケーションの促進:日常的に職場でのコミュニケーションを取り、災害時の助け合いを促します。
・BCP(事業継続計画)の策定と訓練:災害発生時の行動をBCPに基づいて計画し、定期的に訓練を行います。災害時には、BCPに従って迅速に対応できるように準備しておきましょう。
BCPについて詳しくは「知る・計画する:防災情報のページ-内閣府」をご覧ください。
ステージ2「発生時の対応」
従業員の心のケアを開始するタイミング
従業員の心のケアは、災害直後から始めることが望ましく、初期段階で適切なリスクマネジメントを行うことで、メンタルケアにもつながります(※3)。
第一に安全確保
まずは従業員の安全を確認し、衣食住の確保を最優先します。
情報収集と情報提供
従業員の不安を軽減するため、正確で迅速な情報収集と提供を行います。不確実な情報や噂が広まると、従業員の不安が増大するため、できるだけ早く現状や今後の方針を伝えることが大切です。 (※2)
ステージ3「フォローアップ」(被災後~復興)
被災直後から生活の基盤整備を支援し、その後は必要な心理ケアを行います。以下に具体的な方法を示します。
従業員フォローの進め方
①従業員ひとりひとりの状況を把握する
勤怠や行動の変化を確認し、必要に応じて産業保健スタッフへの連絡を検討します。例えば、「残業が増えていないか」「土日出勤をしていないか」などを確認することで、負荷が増えている従業員を把握することができます。
また、心身の状態の把握は特に重要です。「落ち着きがなくなる」「ずっとぼーっとしている」など、普段と違う行動パターンをとる従業員がいれば、管理監督者や周囲から声かけを行います。必要に応じて産業保健スタッフなどの専門職に繋げることも必要になります。
②ストレスによる心身の反応を説明
全従業員に対して、自身や周囲の従業員に起こっている心身の反応が正常であることを知ってもらい、安心感を持てるよう支援します。
全従業員を対象にすることで、当事者の安心感に繋がるだけでなく、周囲も変化に気づき、配慮することができるようになります。
③相談窓口の設置と利用のアナウンス
相談窓口を周知し、活用できるように支援します。社内にそれらがない場合は、外部の相談窓口(従業員支援プログラム(EAP)、産業保健センターの電話相談、いのちの電話等)の情報を必要に応じて周知しましょう。
④人員調整で現場の負担を軽減する
混乱している現場には、他部署からの応援などで現場の負担を軽減し、従業員の心身の負担を分散します。
⑤職場やキャリアの保障を伝える
労働者が最も不安に感じるのは、職場がどうなるか、自分がどうなるかです。従業員の不安を軽減するため、職場・キャリアの保証を伝え、人事に関する相談窓口を開設します。
ピースマインドのサービスのご紹介
ピースマインドでは、災害発生時のクライシス支援を提供しています。被災された方や被災地支援を行っている従業員の心理的なケアを通じ、企業の復旧支援をサポートします。
被災された方への心理支援
まず初めに、震災により影響を受けている人の範囲の特定を行います。
被災状況を伺い、「相談対象者の選別をし、相談導入時期などの決定をする」お手伝いをおこないます。
次に、心のケアのための外部相談窓口として機能するために、対象者がいつでも相談できるようホットラインとしての導入を実施します。
また、セルフケアやリラクセーションについて心理教育もおこなっています。集団もしくは個人に対して、震災後のストレス反応や対処法のレクチャーをさせていただきます。
被災地支援のために稼働が極端に増えている方への支援
実際に被災された従業員だけではなく、被災地支援をおこなっている会社にもクライシス支援をおこなっています。実際の介入例を見てみましょう。
被災地支援担当の従業員が休みなく働いていて、「休んでください。」と伝えても休んでくれない
このような場合には、従業員が体調を崩していないか、ストレス反応の有無を確認します。その後、それぞれにあった以下のようなケアをおこないます。
・交感神経が有意に働いてしまう時期のため、副交感神経に切り替える方法をお伝えする
・現場を見続けている人の気持ちのケア
・気持ちを言語化するためのお手伝い
・会社に対する不満や要望を言えないことが多いため、聞き取って、まとめて会社に報告
このように、直接の被災者でなくても、災害に関する仕事をされている従業員の心身のケアも非常に重要です。
まとめ
災害が発生した場合、従業員個人と組織の双方に大きな影響が及びます。被災後の心のケアは迅速かつ継続的に行われるべきであり、そのためには平時からの備えが重要です。社内での対応が難しい場合には、従業員のメンタルヘルスを守り、早期の復興支援につなげるために、外部の専門機関の活用を検討されることをお勧めします。
参考文献
※1 厚生労働省 自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル
※2 職場における災害時の心のケアマニュアル
※3 災害に向けた企業のリスクマネジメントとメンタルヘルス対策