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【相談事例あり】治療と仕事の両立を支援するために企業ができること

病気を抱えながら働くことが一般化しつつあります。しかし、病気の治療は先の見通しを立てづらく、病状や個人によって治療計画や心身変化、負担などが異なることから個別性高い対応が必要となります。適切な支援が行われることで、当事者が働きやすくなるだけでなく、企業にとっても離職防止につながるというメリットがあります。

そこで本記事では、治療と仕事の両立に関する実情を紹介しながら、企業としてどのように両立をサポートできるのか、その対応のポイントについて解説します。

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目次[非表示]

  1. 1.治療と仕事の両立の実情
    1. 1.1.治療と仕事の両立に関する傾向
    2. 1.2.当事者の視点から見た治療と仕事の両立
    3. 1.3.企業の取り組みの実態
  2. 2.なぜ企業として取り組む必要があるのか
    1. 2.1.企業による支援の効果
      1. 2.1.1.①労働力の損失の回避
      2. 2.1.2.②多様性を受け入れることのできる職場
    2. 2.2.合理的配慮という考え方
  3. 3.企業による両立支援の体制構築
    1. 3.1.両立支援を行うための環境整備
    2. 3.2.両立支援の進め方
    3. 3.3.EAP相談窓口に寄せられた治療と仕事の両立の事例
      1. 3.3.1.ご相談①上司として何をすべきか​​​​​​​
      2. 3.3.2.ご相談②Aさんへの接し方がわからない
      3. 3.3.3.ご相談③チームとしてどうサポートしていくか
  4. 4.まとめ
  5. 5.サービス紹介
  6. 6.参考資料



治療と仕事の両立の実情

治療と仕事の両立とは、「病気を抱えながらも、働く意欲・能力ある従業員が、仕事を理由として治療機会逃すことなく、また治療必要性理由として職業生活継続妨げられることなく適切な治療受けながらいきいき就労続けられること」を指します。この章では、治療と仕事の両立に関する実態をデータ、当事者、そして企業の視点からお伝えします。


治療と仕事の両立に関する傾向

仕事を持つ人のうち、病気やけがで通院している人は2,325万人に上り、働く人全体の40.6%にも及びます。また、職場での健康診断による有所見率は年々増加していることから、今後、働き盛り世代の病気と仕事両立課題はより一層顕在化してくると考えられます(※1)。

従来、病気を患うことは仕事からの長期離脱を連想させるものでしたが、現在では、治療続けながら働く人や一時的に休職して職場復帰する人が増えています(※2)。病気の種類や治療方針により異なりますが、一例として、がん診断後の就労状況を見ると、35.8%の人が長期休業せずに仕事を継続していることがわかります。


がん 診断後 就労 影響


当事者の視点から見た治療と仕事の両立

当事者にとって、治療と仕事を両立することには以下のような理由から大きな意義があります。

・生きがいであり、回復へのモチベーションになる
・収入を家計や治療費に充てることで経済的安定を保てる

一方で、両立をする上での不安や心配もあります。同じ病気でも、その進行度や薬との相性、治療計画などによって必要な配慮は異なります。特に診断初期は、病気とどう向き合うかが不明確で、会社に何を報告し、どう調整すべきかが当事者にもわからない場合が多くあります。

このように、治療と両立しながら働く人は今後さらに増え、個々の事情に配慮した対応が求められるでしょう。それに伴い、企業がどのように両立支援を提供できるか、改めて考える必要があります。



企業の取り組みの実態

厚生労働省が行った令和4年度の調査によると、傷病を抱えた何らかの配慮が必要な労働者に対して両立支援のための取り組みをしている企業は58.8%にのぼります(※3)。これらの企業の多くは主に制度面の対策に取り組んでいますが、81.8%が「代替要員の確保」や「上司や同僚の負担」といった課題を抱えているということが分かりました(※3)。このことからも、企業としての両立支援のあり方について、さらなる検討をする必要があるといえるでしょう。


なぜ企業として取り組む必要があるのか

企業が治療と仕事の両立を支援する目的や意義についてご紹介します。


企業による支援の効果

治療と仕事の両立をサポートすることは、単に労働損失の回避だけにとどまらず、多様性を認めることによる職場全体の働きやすさの改善などの波及的な効果も期待できます。


①労働力の損失の回避

治療をしながら働き続けるためには、様々な事情を考慮した柔軟な対応が求められます。十分に制度が整備されていない場合、両立が難しくなり、離職の可能性が高まります。このような「両立できないから離職する」というケースを防ぐため、企業が両立支援に取り組むことが必要です。


②多様性を受け入れることのできる職場

病気の治療内容やペースは個人によって異なります。今後さらに治療と仕事を両立する従業員の数が増加することが予想されているため、企業には、多様な働き方を受け入れる支援体制の整備が求められます。当事者だけではなく、人事や管理職、同僚といったサポートする側にとっても気持ちよく働ける職場環境を整えることが重要です。このような支援体制の整備は、職場全体の心理的安全性向上にもつながります。

両立支援 効果



合理的配慮という考え方

企業が治療と仕事の両立を支援する際に重要なのが「合理的配慮」という考え方です。

合理的配慮とは、「障害者が他の者と平等に人権および基本的自由を享有・行使できるようにするため、必要に応じた変更や調整を行うこと」とされており、過度な負担を伴わない範囲で実施されるものとされています(※4)。治療と仕事の両立支援においては、「当事者に過度の負担をかけずに必要なサポートを一時的提供する」という意味で活用できます。

治療と仕事を両立させるためには、通院や体調変化、働き方への不安に対するサポートが不可欠です。このとき、周囲からの合理的な配慮があれば、当事者は治療と両立しながら働き続けることができます。

また、合理的配慮の実施には、当事者や企業、医療機関などが密に連携を取り、当事者の意向や企業方針、治療の進行度や身体への負担などの情報を共有することが求められます。



企業による両立支援の体制構築

企業が治療と仕事の両立を支援する際には、厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」をベースに進めるとよいでしょう。しかし、個別のケースには独自の対応が必要になることもあります。この章では、ガイドラインに基づいた体制構築のポイントと、従業員支援プログラム(EAP)を活用した支援事例をご紹介します。


両立支援を行うための環境整備

両立支援のための職場環境整備には主に以下の要素が含まれます。

両立支援 環境整備

治療との両立を続けていく中、当事者は、自身の病気や働き方の変化について周囲がどのように受け入れてくれるのか不安を感じることも少なくありません。そのため、当事者にとって、自身の病気や両立を受け入れてもらえる職場環境は大きな支えとなります。

また、何らかの病気に罹患し治療が必要となる可能性は誰にでもあります。業として対応指針を示し、社員が当事者となった際に安心して相談や申し出を行えるようにすることや、周囲当事者がいる場合適切なサポートできるよう啓蒙活動行うことも大切です。

治療に限らず、育児や介護といったさまざまな事情を抱える従業員と共に働きやすい環境をつくるには、当事者を含めた職場全体の風土づくりが鍵となります。人事担当者としては、定期的な情報発信や教育機会の提供、相談しやすい環境づくりに向けた工夫を行うとよいでしょう。



両立支援の進め方

治療と仕事の両立支援は、まず支援を必要とする労働者からの申し出を受けることから始まります。当事者の症状や治療状況、就業継続に関する意見、必要な配慮の内容などの情報をもとに、どのような支援が必要かを検討していきます。

両立支援 必要 情報

当事者自身の仕事に関する情報を主治医に提供した上で、治療や就業に関するアドバイスを受けることが推奨されています。

労働者から事業場の産業保健スタッフや人事労務担当者に相談があった場合は、労働者が必要十分な情報を収集できるよう、産業保健スタッフや人事労務担当者は、必要な支援を行います。具体的な対応には、厚生労働省の「
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン 」を参考にするとよいでしょう。

両立支援 ガイドライン


EAP相談窓口に寄せられた治療と仕事の両立の事例

従業員の治療と仕事の両立支援を行う際に企業が具体的にどのような対応を行うべきでしょうか。本章では、EAPへの相談事例をもとに、企業にできる具体的な対応の一例をご紹介します。



営業職のAさんは、会社の健康診断で要精密検査となり病院で検査を受けた結果、乳がんと診断されました。働き続けたいという意向を主治医に伝えたところ、両立可能な事例が多いことを知り、治療と仕事の両立を決意しました。しかし、治療の進行や体調の変化により働き方の調整が必要になるため、Aさんは自身の病気について上司のBさんに報告しました。そこでBさんは、Aさんの治療と仕事の両立を支援するため、EAP相談窓口に来談しました。



ご相談①上司として何をすべきか​​​​​​​




治療は予期せず始まります。Bさんも突然の相談に動揺し、どのような対応をすべきか分からずにいました。EAPコンサルタントはBさんに対し、人事部に社内の支援制度・支援体制について尋ねるよう助言しました。また、Bさんに両立支援に関する情報と今後の流れ、上司としての役割や対応方法について整理するサポートを行いました。その結果、Bさんは今後の対応に対する見通しが持て、心の余裕が生まれたと感じたそうです。



ご相談②Aさんへの接し方がわからない




BさんはAさんの治療を心配し、応援したいという気持ちがありつつも、どのような言葉をかけてよいか迷っていました。EAPコンサルタントは、Aさん自身との対話、率直に気持ちを確認することが重要であると助言しました。また、事例を通して、当事者が抱える気持ちに寄り添った対応方法についても説明し、安心してコミュニケーションを取れるようサポートしました。



ご相談③チームとしてどうサポートしていくか





Aさんの両立を支援していくためには、チームの協力が必要となる場合もありますが、「時間的に難しい」という反応や心理的な抵抗が生じる可能性も想定され、管理職としては悩ましいこともあることが考えられます。そこでEAPコンサルタントは、Bさんの抱える懸念点を整理しながら予め阻害要因となり得ることを洗い出し、効果的な方策を議論することで、スムーズな問題解決のための支援を行いました。Bさんは、「自分一人で全てを抱える必要はないと分かり、焦りが和らいだ」と感じ、順次対応していく見通しが立てられたと話されました。


まとめ

病気を抱えながらも働き続ける従業員の方に伴い、企業として、治療と仕事の両立支援に力を入れることの重要性が増しています。これは当事者の負担を軽減するだけでなく、企業全体の生産性や従業員定着率向上にも寄与する取り組みです。本記事では、企業が従業員の両立を支援するために企業が取り組むべきポイントを、実際の相談事例とともにご紹介しました。

全ての従業員がイキイキと働き続けられる職場環境を実現するために、どのような支援が必要となるでしょうかこれからも模索し、改善に取り組みたいと考えます。



サービス紹介

EAP(従業員支援プログラム)とは、従業員の「はたらくをよくする®」ことを目的に、心理学や行動科学の視点から職場のパフォーマンス向上に向けた課題解決支援を提供するプログラムです。専用ホットラインや予約制カウンセリング(対面・電話・オンライン)を通じて、職場での不安や悩み、メンタルヘルスについての知識やアドバイスを必要とする多様なシーンでのサポートが可能です。

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参考資料

※1 厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」
※2 東京都保健医療福祉局「がんになった従業員の治療と仕事の両立支援サポートブック」
※3 厚生労働省 「令和4年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」
※4 厚生労働省「合理的配慮指針」


伊藤 朋子(いとう ともこ)
伊藤 朋子(いとう ともこ)
ピースマインド株式会社 社員コンサルティング部 公認心理師 臨床心理士  国内生命保険会社で個人・法人営業、営業職員教育などに従事。大学院で臨床心理学修士取得後、ピースマインド株式会社にてEAPコンサルタント臨床業務に従事。個人では各種ヒューマンスキル研修・人材育成プログラムの企画・実施、がんに関わる患者家族支援の団体運営や自治体での治療と仕事の両立支援施策に携わっている。

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