【クライシス-事故・自殺】従業員や会社への影響と、会社として必要な対応とは


企業は、自然災害(地震・台風・パンデミック・人的被害など)や事故・事件といったさまざまな惨事に直面する可能性があります。これらの出来事は「クライシス」と呼ばれ、企業にとって重大なリスクとなります。

こうしたクライシスに備えるために、企業は「リスクマネジメント(クライシス発生前の体制づくり)」と「クライシスマネジメント(クライシス発生後の緊急対応)」を行うことが求められます。

本記事では、クライシスの中でも、特に社内で事故や自殺が発生した際に、企業がどのような対応を取るべきかについて詳しく解説します。

この記事では発生後の対応について扱いますが、予防の観点はこちらの記事で扱っています。

※注釈※
*本記事では、以下から「自殺」を「自死」と表記し解説していきます。
*本記事は企業の人事担当者の方に向けた情報です。ご自身が自死を考えるほどお辛い状況にある方は、お勤めの会社で導入されている相談窓口サービスや、厚労省が「心の耳」(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)で案内している相談窓口にご連絡ください。

目次[非表示]

  1. 1.クライシスマネジメントとは
    1. 1.1.職場における従業員の死
    2. 1.2.企業として求められる対応
  2. 2.従業員の死による影響
    1. 2.1.身近な従業員への影響
    2. 2.2.会社全体への影響
  3. 3.会社が取り組むポストベンション(事後対応)
    1. 3.1.企業が伝えるべきこと
    2. 3.2.従業員に必要なケア
    3. 3.3.ポストベンションの重要ポイント
  4. 4.外部機関との連携によるクライシス支援
  5. 5.ピースマインドのクライシス支援
  6. 6.まとめ
  7. 7.参考文献

クライシスマネジメントとは

職場における従業員の死

厚生労働省 令和5年労働災害発生状況(※1)によると、令和5年度の1月から12月までに発生した労働災害による死亡者数は755人(新型コロナウイルス感染症への罹患によるものを除く)であり、過去最少の数字となりました。しかしながら、毎年、多くの方が就業中の事故により命を落としています。

また、自死の原因は多岐にわたっており、複合的な要因が絡み合う中で発生しています。令和5年度の自死者は約2万人と推定され、そのうち約13%のケースでは「勤務問題」が原因の一つとされています(※2)。

このように、一緒に働いてきた同僚が突然命を落とす、という出来事が発生した場合、残された従業員や組織にはどのような影響があるのでしょうか。そして、会社としてどのような対処をすべきでしょうか。

クライシスが発生すると、「従業員個人」と「組織」の両者に大きな影響が生じます。これを放置すれば、心身の不調による従業員の休職や離職など、さらなる被害(二次被害)に発展するリスクも高まります。そのため、迅速かつ適切な対応ができるよう、平時からの備えが重要です。



企業として求められる対応

まず、クライシスマネジメントの基本的な流れについて説明します。

従業員の事故や自死を含む様々なクライシスの予防や発生時に、企業に求められる対応は以下の3つのステージ(準備段階、発生時の対応、フォローアップ)に分かれます。
平時における準備段階から、クライシス発生時、さらには一定期間後のフォローアップまで、それぞれのステージで必要な支援を確認していきましょう。


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ステージ1「準備段階」
この段階は、クライシスマネジメントにおいて最も重要な部分といえます。クライシスが発生する前の平時に、クライシス発生時を想定した体制の確認を行い、従業員へのメンタルヘルスに関する教育や支援を行うことが求められます。

ステージ2「クライシス発生時の対応」
緊迫した状況下では、迅速かつ適切な対応が求められます。クライシスは従業員個人と組織全体に影響を与えるため、優先順位をつけ、同時に広範囲かつ個別のケアを進める必要があります。特に心理ケアには専門性が求められる場合が多く、必要に応じて外部の専門家を活用することが大切です。

ステージ3「フォローアップ」
クライシス発生から一定期間が経った回復期においても支援が必要です。
PTSDやアニバーサリー反応など、時間が経過してからも心理的な不調が発生することがあるため、定期的なメンタルケアを通じてこれらを予防しましょう。


従業員の死による影響

身近な従業員への影響

同僚が事故や自死で亡くなった場合、職場の人々は強い心理的ショックを受けます。

影響を受けやすい方
特に心理的に影響を受けやすい従業員は、心身の健康が悪化する可能性が高いハイリスク群として注意が必要です。影響を受けやすい従業員の特徴には以下のようなものがあります(※3)。


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よく見られる影響、訴え
クライシス発生後、1か月ほどの間に周囲の従業員に様々な反応が現れることがあります。応のタイミングや種類には個人差がありますが、よく見られる訴えには、「眠れない」「自責の念故人に対して、もっと何かできたのではないかという思い)」などが挙げられます。反応が続く期間や段階は人によって異なりますが、一般的には以下のような流れで変化していきます。


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このように、死を受け入れるには時間がかかり、その過程で現実に抵抗したくなることは自然な反応です。

また、もともと不安要因が多かったり、過去に同様の経験があったりする従業員は、回復までに時間がかかることがあります。メンタルの落ち込みが続いたり、抑うつやPTSDに発展する場合もあります。
以下のような兆候が見られた場合は、周囲から声をかけ、医療機関の受診や産業医の面談を勧めるべきです。
・1~2か月経っても心身の状態が安定しない
・睡眠への影響が出ている状態が2週間程度続く
・見るからに以前の様子と変わっている

クライシスの発生による気分の落ち込みは自然な反応ですが、適切なケアを受けることで回復が期待できます。企業としては、クライシスマネジメントを適切に実施し、従業員と組織への影響を最小限に抑えることが重要です。



会社全体への影響

会社で一人の従業員が亡くなるということは大きな出来事であり、一緒に働いてきた身近な従業員だけではなく、職場全体に大きな影響を及ぼします

例えば、職場環境や上司に対して不満を抱いていた従業員がいた場合、その不満がこの出来事をきっかけに一気に噴出し、職場の士気大幅に低下する可能性あります。

また、事故が起きた部署では、通常業務に加えて、遺族や社会への対応が求められます。さらに、従業員の中にはショックを受けて休む者が出る可能性もあり、現場の業務が停滞することが考えられます。これにより業務量が増加し、他の従業員の負担が大きくなる可能性もあります

そして、メンタルの不調が仕事面にも影響を与え、会社全体の利益低下に繋がることも考えられます。

さらに、会社が外部に対してどのように対応するかによって、従業員の信頼が損なわれることもあります。例えば、ある企業では自死の事実を隠し、「退職した」と事実とは異なる説明をするよう指示した結果、従業員の間に不信感が広がり、最終的には離職つながったというケースもあります。

このように、従業員の死は、会社全体に広範な影響を及ぼすため、組織全体への適切なケアが求められます。



会社が取り組むポストベンション(事後対応)

ポストベンション(事後対応)とは、クライシス後に遺された人々の心理的影響を最小限に抑えるための対策のことで、従業員一人ひとりに対するケアと、会社全体に対するケアに分けて行われます。


企業が伝えるべきこと

①事故や自死について事実を中立的に伝える
自死が起きた場合、ご家族のご意向で事実を公表できない場合もあります。そのような場合も含め、その時点で共有できる情報をタイムリーに伝えることが重要です。遺族や従業員が動揺している場合、個別の対応を心がけましょう。故人を非難したり、美化し過ぎるのは避け、冷静で公正な情報提供を心がけます。


②情報をタイムリーかつ正確に伝える
情報を隠すと、憶測が広がり不安が高まります。会社の対応方針や、今後の予定についても正確な情報を提供するとともに、問い合わせ先を一本化するなど、混乱防いで従業員が安心できるようにしましょう。


③人員を調整し、負担を軽減する
事故があった部署は特に負担が大きくなるため、他部署から応援を入れるなどして、業務と心の負担を軽減します。


従業員に必要なケア

特に影響を受けやすい従業員には、積極的にアプローチし、心理的ケアを行います。従業員が相談しやすい環境を整え、知識が不足している場合には、自身の反応正常なものだと理解させること重要です。必要に応じて、専門家に相談する機会を早期に提供します。

上司や人事からの声かけも、従業員に安心感を与え、回復を促す手助けになります。

ピースマインドがクライシス支援を行う中で、「会社がカウンセリングを導入してくれたこと自体がうれしい」という声が多く寄せられます。会社が積極的に動いてくれている事実そのものが、従業員の心身の健康を守る重要な支援となっています。


ご遺族への対応

職場で事故や自死が発生した場合、最も影響を受けるのは遺族です。遺族に対して、職場として、どのような対応が求められるでしょうか。

誠心誠意対応する
遺族は複雑な感情を抱えており、時には職場担当者に怒りをぶつけることもあります。

・遺族の心の痛みに真摯に耳を傾ける。
・職場も大切な仲間を失った悲しみを共有し、誠心誠意悼む姿勢を示す。
・遺族の質問にはおざなりな対応をせず、誠実かつ冷静に事実を伝える

その場で回答できないことがあれば、調査した上で、後日必ず丁寧に返答することが重要です。曖昧な対応やその場しのぎの返答は、遺族の不信感を招きます。必要に応じて、弁護士や社労士等の専門家に相談することも検討してください。

心身両面のケアが必要
遺族に心身の不調が出てくる可能性もあるため、精神保健の専門家がサポートできることを伝えましょう。相談窓口を遺族が利用できる場合は、ぜひ情報提供をしてください。

故人を忘れないことを伝える
遺族の悲しみは簡単には癒されません。そのため、職場としても事故や自死が起きた後に限らず、故人を忘れないでいることを折に触れて遺族伝えることが大切です。職場の同僚が今でも故人を覚えているということが、遺族にとって最大の励ましになります。


ポストベンションの重要ポイント

ポストベンション(事後対応)における重要ポイントは以下のとおりです。

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社内でのポストベンションが難しい場合には、外部の専門家に依頼することもひとつです。



外部機関との連携によるクライシス支援

職場だけで従業員の死に対応するには、専門的な知識や経験が不足していることがよくあります。そのような場合には、外部機関との連携を図ることや、必要に応じて専門家によるサービスを活用することをお奨めします。ピースマインドは、クライシス支援の専門家として、従業員や組織に適切な心理的サポートを提供し、事後対応を効果的に行うためのご支援を行っています。

クライシス支援の主な内容
●個別の面談
クライシス支援として発生ベースでご相談いただけます。その後もEAPにて継続的な面談をおこなうことも可能です(別途契約が必要です)。

●グループレクチャー(研修)
ストレス反応の説明や、今後の過ごし方のポイントなどを伝え、従業員が自身の感情や反応のメカニズムを理解することで、安心感を得ることを目指します。



ピースマインドのクライシス支援

ピースマインドでは、予防からクライシス発生後までトータルでサポートするクライシス支援サービスをご提供しています。

EAPコンサルタントが迅速に対応し、個人から組織まで多面的なサポートを行います

従業員のクライシスケアでお困りの際には是非ご相談ください。



まとめ

会社内で従業員の事故や自死が発生した場合、従業員個人と組織の双方に大きな影響 を与えます。これを放置すると従業員の休職や離職など二次的な被害を引き起こす可能性が高まります。迅速かつ適切な対応を行うために、平時からの備えが重要です。社内での対応が難しい場合には、外部機関を活用することも検討されるとよいでしょう



参考文献

※1 厚生労働省 令和5年労働災害発生状況
※2 警視庁 令和5年中における自殺の状況
※3 厚生労働省 職場における自殺の予防と対応



鈴木 麻美(すずき あさみ)
鈴木 麻美(すずき あさみ)
ピースマインド株式会社 社員支援コンサルティング部 EAPスーパーバイザー  公認心理師 精神保健福祉士  社団法人日本産業カウンセラー協会 産業カウンセラー 大学卒業後、2004年よりピースマインド株式会社にて、コンサルタントとして、社員のセルフケア、人事・管理職向けのマネジメントコンサルテーション、職場惨事(死亡事故、自殺他)後の心のケア、など、産業現場のメンタルヘルスに関わる業務に携わる。個人カウンセリングだけでなく、グループセッション、研修、ストレスチェック組織分析説明会などを実施。 ストレス・マネジメント、不調社員、職場不適応社員対応、休職・復職対応、職場惨事対応などを専門とする。

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