【徹底解説】ストレスチェックにおける産業医の役割 -産業医が共同実施者になるメリットとは-
労働安全衛生法(※1)の改正により、2015年12月からストレスチェックの実施が義務付けられるようになりました。
義務化に伴い、ストレスチェックは実施しているものの「ストレスチェックの制度を活用しきれていない」というお悩みの声が少なくありません。
本記事では、産業医との連携を強化することによってストレスチェックをより効果的に実施する方法についてお伝えします。
目次[非表示]
ストレスチェックの実施手順
まずは、ストレスチェックの準備から実施、職場改善までの全体の流れをご紹介します。
ストレスチェック制度導入マニュアル(※2)では、ストレスチェックの実施手順は以下の図のようになっています。
①ストレスチェックに関する方針決定
まずは、ストレスチェックに関する方針を決定します。具体的には、衛生委員会で実施体制、実施方法、情報の取り扱いなどを話し合い、社内規程としてストレスチェック実施前に従業員に周知します。
②ストレスチェックの実施
実施にあたっては、企業の中でストレスチェック制度担当者を決め、ストレスチェックの企画や結果の評価を行う実施者と調査票の回収やデータ入力など事務的な作業を行う実施事務従事者を決定します。
➤ストレスチェックの実施方法や調査票については厚生労働省のストレスチェック導入ガイドをご覧ください。
③医師の面接指導実施
ストレスチェックでは、ストレス反応が強い人や仕事でストレスを感じながらもサポートが得られていない人が高ストレス者として判定されます。高ストレス者として判定された人たちには医師による面接指導を受けることが推奨され、高ストレス者と判定された従業員から面接指導を受ける申し出がなされた場合、医師との面接指導を受けることになります。面接指導では、セルフケアの助言や専門医療機関への受診の判断が行われます。
➤高ストレス者への対応についてはこちらをご覧ください。
④ストレスチェック結果の分析と職場環境の改善
従業員個人に対して面接指導を行う一方、組織に対しては集団分析(※)を行った結果から職場環境の改善の指導・助言を行います。具体的には管理監督者への研修や衛生委員会の活用方法の検討などが行われます。これらは努力義務ではありますが、ストレスチェックを職場環境の改善に活用するためには実施した方が良いでしょう。
※集団分析は、原則10人以上を集計単位とする必要があります(※3)
➤個人結果の活用事例についてはこちらをご覧ください。
➤集団分析による職場環境改善の事例についてはこちらをご覧ください。
⑤労働基準監督署への報告
面接指導が終了した後、ストレスチェックと面接指導の実施状況について企業は労働基準監督署に報告を行います。労働基準監督署への報告を怠った場合は、労働安全衛生法(※1)に基づき50万円以下の罰金が科せられます。
ストレスチェック結果の活かし方
一般的にストレスチェックの結果はどのように活用されているのでしょうか。
ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書(※4)によると、2022年時点でストレスチェックの実施を外部の機関に委託している企業は72.8%にのぼっています。
しかしながら、外部委託することで、人事担当者からは以下のようなお悩みをお聞きすることがあります。
|・面接指導をしても高ストレス者社員に改善がみられているように思えない
|・ストレスチェックの結果をどのように職場環境の改善に繋げていいのかが分からない
また従業員側からはこのような声を聞くことがあります。
|・ストレスチェックをやったにも関わらず、会社がストレスの対策に十分に取り組んでいると思えない
|・個人結果をどのように活用したら良いのか分からない
こうしたお悩みは、ストレスチェックの実施が形骸化してしまっていることが原因であると考えられます。
このようなお悩みに対して、ストレスチェックの実施を外部委託する場合でも自社でもより効果的な改善活動を行うことが出来るように、産業医と連携をとることも効果的であると考えられます。
次の章では、産業医との連携強化について詳しく解説します。
ストレスチェック実施において産業医との連携を強化する
ストレスチェックの実施にあたっては、産業医との連携を強化することが欠かせません。本章では産業医との連携を強化する理由や、具体的な方法についてご紹介します。
産業医と連携してストレスチェックを実施することのメリット
前の章でご紹介したストレスチェックの実施が形骸化してしまい、改善まで行うことが出来ないというお悩みに対して、ストレスチェックを産業医と連携して実施することによる解決方法を説明します。
産業医に実施者としてストレスチェックに関わってもらうメリットとしては、ストレスチェックの結果を踏まえた就業上の措置や職場環境の改善の透明性を保つことが出来る点が挙げられます。
ストレスチェックの実施者は、労働安全衛生規則(※6)により、医師、保健師、研修を受けた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師に限定されます。
また原則として、ストレスチェックの個人結果は、従業員の同意が得られない限り、実施者以外に共有することは出来ません。特にストレスチェックの実施者業務を外部機関に委託する場合は、実施者や共同実施者に選任されていない産業医の場合は、従業員の同意が得られない限り結果を共有することが出来ません。
したがって、特に実施者業務を外部委託する際には、例えば高ストレス者の個人結果に基づく改善策が見えにくくなってしまうという状況が起こり得ます。また、個人結果を共有する範囲について注意する必要があるでしょう。
一方で、産業医に実施者としてストレスチェックに関わってもらうことで、「意見書の提出」「改善施策の立案、実行へのアドバイス」をしてもらうことが出来ます。
「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」には、ストレスチェックの実施者について「実施者は複数でも良いが、産業医がその1人になることが望ましい」と書かれています。
ストレスチェックの実施は外部委託など産業医以外が行っても良いですが、実施後の医師面接指導などをより効果的にするなら、産業医も実施者の1人になっていた方が良いと考えられます。
産業医が実施者となることで、ストレスチェックの結果を確認することができ、また職場や業務への理解があるため助言・指導がより効果的になるでしょう。
産業医がストレスチェックの共同実施者になる
では具体的にどのように連携をとれば良いのでしょうか。
ここでは連携の方法として共同実施者として業務を担ってもらう方法をご紹介します。
ストレスチェック実施者とは
ストレスチェックには実施者と実施事務従事者という役割があります。
実施者は、質問票や評価方法の選定といったストレスチェックの設計から運用における重要事項の決定をします。
一方、実施事務従事者は、ストレスチェック調査票の配布・回収や回収したデータの入力、個人への結果の通知などの事務的な作業を行い、実施者の補佐役として立ち回ります。
実施者の具体的な業務は以下になります。
ストレスチェックの実施者になることが出来る人は、前述のような資格を持っている必要があります。また、企業の中で人事権を持つ人は実施者にも実施事務従事者にもなることが出来ないため、選定の際には注意が必要です。
また、外部のストレスチェックサービスに委託する場合には、外部機関が実施者になることがあります。このような場合、産業医を共同実施者とすることでより自社の状況に即したストレスチェックの実施が可能になります。次の章では、産業医が共同実施者になる場合についてのポイントをお伝えします。
産業医が共同実施者になる場合
産業医が共同実施者の場合、産業医の役割は主に以下の4つです。
中でも特にストレスチェックへ産業医の関わりが求められる業務についてご説明します。
①ストレスチェックの質問項目について意見を述べる
ストレスチェックの質問項目は、職業性ストレス簡易調査票(※7)などのフォーマットが用意されていますが、最終的にどのような質問項目を採用するかは実施者の提案や助言、衛生委員会の調査審議を経て、企業が決定します。
したがって、企業のニーズや課題感に合わせて質問項目を追加することも可能です。例としては、ハラスメント対策に課題感がある場合には、ハラスメントの実態やハラスメントに対する従業員の意識などの項目を追加することで、潜在的なリスクを測定することができます。
また高ストレス者の選定基準も、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(※8)の中で基準が示されていますが、具体的な選定基準は、実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて、事業者が決定します。
このように、質問項目や選定基準の決定に実施者は大きな影響を及ぼしますので、実施者・共同実施者として選任された産業医に質問項目や高ストレス者の判定基準について専門的な意見を仰ぐことも重要なこととなります。
②高ストレス者の選定基準の方針、個人のストレスチェック結果に基づく医師による面接指導の要否に関して確認する
ストレスチェックの実施後には、従業員のストレスチェックの結果を見て、その従業員が面接指導の対象となるかの確認を行います。
各企業で定めた基準に基づいて面接指導の対象者を決定しますが、各従業員の結果は個々人によって様々なので、面接指導の対象であるか否かを判断する役割を、医学的見地と業務の観点を持った産業医が担うと良いでしょう。
③面接指導の申出の勧奨
面接指導を受けるかどうかは最終的には従業員の意思によりますが、できるだけ面接指導を受けてもらうために、実施者は申し出を勧奨することが出来ます。
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(※9)では、具体的な方法として、以下の3つが挙げられます。
- ストレスチェックの結果を通知する際に、面接指導の対象であるため面接指導を受けるよう勧奨する
- ストレスチェックの結果の通知から一定期間後にその後の状況について確認し、申出を行っていない従業員に面接指導を受けるよう勧奨する
- 面接指導の申出の有無を事業者から教えてもらい、申出を行っていない従業員に勧奨する方法
ストレスチェックの実施を外部に委託している場合には、ストレスチェックの受検率や医師面接指導の申出率の向上について、産業医と外部機関が連携して取り組むことも有効です。
まとめ
今回は、ストレスチェック実施の流れや、産業医が共同実施者になるメリットについてご紹介いたしました。
ストレスチェックは従業員のストレスの程度を画一的に測ることの出来る重要なツールです。従業員個人や職場環境の改善に活かすために、まずは実施の体制を変えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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参考文献
※1:労働安全衛生法
※2:ストレスチェック制度導入マニュアル
※3:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて
※4:ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書
※5:ストレスチェック制度の実施状況
※6:労働安全衛生規則
※7:職業性ストレス簡易調査票
※8:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
※9:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル