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産業保健に関わる専門職の役割とは?

近年、働き方改革やメンタルヘルスへの関心が高まり、企業における産業保健活動は注目されつつあります。

一方で、産業保健活動に係る専門職の存在は知っているが「どのような役割を担っているのかわからない」「どのような業務に取り組んでいるかがわからない」「ストレスチェックの結果が良くなかったが、誰に相談すればよいのかわからない」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、産業保健活動に係る専門職について、それぞれの専門職の概要と役割についてご紹介していきます。

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目次[非表示]

  1. 1.産業保健活動に係る専門職(内部)について
    1. 1.1.産業医
    2. 1.2.産業看護職(看護師・保健師)
    3. 1.3.衛生管理者(衛生工学衛生管理者)
    4. 1.4.安全管理者
    5. 1.5.総括安全衛生管理者
    6. 1.6.安全衛生推進者(衛生推進者)
    7. 1.7.作業主任者
    8. 1.8.化学物質管理者
    9. 1.9.心理専門職
  2. 2.産業保健活動を支援する外部機関
    1. 2.1.EAPとは
  3. 3.まとめ



産業保健活動に係る専門職(内部)について


産業医

労働者の健康管理、職場の安全衛生管理等に必要な医学知識を備えた医師です。

産業医は、 産業保健チームにおいてリーダーシップを発揮することが期待されます。臨床医・主治医とは立場が異なり、労働者が、安全に、健康に、快適に仕事が行うことができるように、事業主と労働者に指導・助言を行っていく立場になります。


また、労働安全衛生法の改訂により、産業医の業務や重要性がますます注目されています。

しかし、これらの職務は、その全てを産業医のみで実施しなければならないということではなく、他の専門職の協力を得ることで、より効果的・効率的に実施することができます。

たとえば、産業医は、定期的に職場巡視を行う必要がありますが、他の専門職が事前に職場の問題点を整理し、産業医に情報提供することで、 効果的・効率的な職場巡視が可能となります。

産業医の職務は以下の項目にまとめられます(※1)。

・健康診断の結果に基づく措置

・長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置

・ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置

・作業環境の維持管理

・作業管理

・上記以外の労働者の健康管理

・健康教育、健康相談、労働者の健康保持増進のための措置
 労働衛生教育

・労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

・労働安全衛生管理体制の構築   
など


産業看護職(看護師・保健師)

産業看護職は産業保健分野で活動する看護師・保健師を指します。

産業保健分野で活動している看護職は、医療・保健に関する専門的な知識を持ち、企業で活動している専門職です。産業医と、企業及び労働者との架け橋になるような役割を持ちます

設置に法的義務はありませんが、労働者との架け橋という点で、企業にとっても健康経営の促進、ブランドイメージ向上につながると思われます。


産業看護職は、職場の健康課題や事業場全体の健康課題にも取り組む集団的なアプローチを行うとともに、職場環境などをよく理解した上、労働者個人の健康度に合わせた個々のアプローチをすることで、労働者の健康管理を支援しています。 また、事業場の労働者から気軽に相談できる身近な専門職であることが多く、専門性と合わせて 産業保健活動の中で重要な役割を担っています。

産業看護職の職務は以下の項目にまとめられます(※2)。

・健康診断の実施サポート、結果のデータ整理・分析

・健康診断後の保健指導

・職場で起きたケガ・病気への応急措置や対応、医療機関への連携

・長時間労働者へのフォロー

・メンタルヘルス対策

・ストレスチェック後のフォロー

・職場巡視・衛生委員会の運営

・労働者からの健康相談

・労働者への健康教育

・年間の安全衛生計画の立案のサポート


・安全衛生委員会への出席   など


衛生管理者(衛生工学衛生管理者)

衛生管理者は事業者(総括安全衛生管理者)の指揮の下に、労働者の危険、または健康障害を防止するために、特に衛生に関わる技術的な面を管理します。 

衛生管理者は常時50人以上の労働者を使用するすべての事業場で選任することとなっています。事業場の規模に応じて、衛生管理者の数が決まっています。

なお、常時500人を超える労働者を使用する事業場で、有害ガスが発生したり、エックス線等の有害放射線にさらされる業務や鉛等の有害物を発散する場所における、法定の有害業務などに常時30人以上の労働者を従事させる場合には、衛生管理者のうち、衛生工学衛生管理免許所持者の中から1名を選任する必要があります(※3)。


衛生管理者は事業場の職員(常勤)であることが多く、産業看護職が在籍していない事業場では、職場の衛生管理、労働者の健康管理の状況を最も把握しているケースが多いといえます。

このような場合、衛生管理者が産業医・専門職・労働者・所属長等との調整、各種事務手続きの役割を担っています。衛生管理者には、労働衛生に関する専門的な知識を活かし、現場の状況に沿って産業保健活動を進めることが求められます

衛生管理者の職務は以下の項目にまとめられます(※3)。

・健康に異常のある者の発見及び処置

・作業環境の衛生上の調査

・作業条件、施設等の衛生上の改善

・衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項

・労働災害防止の原因の調査及び再発防止対策

・労働者の負傷及び疾病、それによる死亡、欠勤及び移動に関する統計の作成

・その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一場所において行われる 場合における衛生上に関し必要な措置、対応

・その他衛生日誌の記載職務上の記録、及びその整備等


安全管理者

安全管理者は、総括安全衛生管理者の指揮の下に、安全に係る技術的な面を管理します(※4)。

製造業、林業などの法定の業種で、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、安全管理者の資格を有する者から選任し、選任された安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちにその危険を防止するため必要な措置を講じる必要があります

安全管理者の職務は以下の項目にまとめられます。

・建設物、設備、作業場所または作業方法に危険がある場合における応急措置または適当な防止の措置

・安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期的点検および整備

・作業の安全についての教育および訓練

・発生した災害原因の調査および対策の検討

・消防および避難の訓練

・作業主任者その他安全に関する補助者の監督

・安全に関する資料の作成、収集および重要事項の記録

・その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における安全に関し、必要な措置


総括安全衛生管理者

ある一定規模以上の事業場において、労働者の健康または健康障害を防止するための措置などの業務を含めて、安全衛生管理体制の全てを総括する最高責任者が、総括安全衛生管理者であり、安全管理者・衛生管理者等を指揮します

総括安全衛生管理者は事業を実質的に統括管理する権限及び責任を有する者、例えば、工場長などを「総括安全衛生管理者」として選任します。

総括安全衛生管理者の職務は以下の項目にまとめられます(※3)。

安全管理者、衛生管理者などを指揮するとともに、次の業務を総括管理します。

・労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること

・労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること

・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること

・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること

・その他労働災害を防止するため必要な業務

・安全衛生に関する方針の表明に関すること

・危険性または、有害性等に調査及び、その結果に基づき講ずる措置に関すること

・安全衛生計画の作成、実施、評価、改善に関すること


安全衛生推進者(衛生推進者)

常時50人以上の労働者が勤務する事業場では、前述の衛生管理者、安全管理者等を選任しますが、建設業、製造業、電気業などの特定の業種で、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では安全衛生推進者を選任し、その氏名を作業場の見やすい箇所に掲示するなど、労働者に周知させる必要があります

安全衛生推進者とは、労働者の健康障害の防止、衛生教育、健康診断の実施、その他健康保持増進のための措置などを行います。労働者の安全衛生に係る業務(衛生推進者は衛生に係る業務)を担当します。

安全衛生推進者の職務は以下の項目にまとめられます(※5)。

・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。

・労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。

・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。

・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。

・安全衛生に関する方針の表明に関すること。

・労働安全衛生法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項別危険性又は有害性等の調 査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。

・安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。


作業主任者

作業主任者とは、一定の危険有害な作業について選任が義務づけられている、作業の管理監督を行う人です。選任が必要な作業としては、石綿作業、有機溶剤作業、酸素欠乏危険作業など31種類に及びます(※6)。

これらの作業に関して、作業主任者は、労働者の指揮を取ったり、作業の管理監督を行い、その他の労働災害を防止するために管理を必要とする作業で、都道府県労働局長の免許を持つもの、または一定の技能講習を修了した人を作業区分に応じて選任します

作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行わせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させなければなりません。

作業主任者(例:木材加工用機械作業主任者)(※7)の職務は以下の項目にまとめられます。

・木材加工用機械を取り扱う作業を直接指揮すること

・木材加工用機械及びその安全装置を点検すること

・木材加工用機械及びその安全装置に異常を認めたときは、直ちに必要な措置を取ること

・作業中、治具、工具等の使用状況を監視すること


化学物質管理者

企業において、有害物質の自律的な管理が求められる中で、令和6年4月から、リスクアセスメントが義務化されている化学物質(以下、リスクアセスメント対象物)を製造したり、取り扱う全ての事業場ごとに、化学物質管理者の選任が義務化されます(※8)。

化学物質管理者とは、該当する事業場で、化学物質の管理に係わる技術的な事項を管理します。

化学物質管理者の職務は以下の項目にまとめられます(※9)(※10)。

・ラベル、SDS(*)等の確認 

・ラベル、SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合)

・自社製品の譲渡・提供先への危険有害性の情報伝達(リスクアセスメント対象物の製造事業場の場合)

・化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理

・リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理

・化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成、保存 

・化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育

・リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応


*SDSとは、「安全データシート」のSafety Data Sheetの頭文字をとったもので、事業者が化学物質及び化学物質を含んだ製品を他の事業者に譲渡・提供する際に交付する化学物質の危険有害性情報を記載した文書のことです。なお、危険有害性に関しては、化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)に基づく分類を行い、その内容をSDSに記載することになっています(※11)。


心理専門職

心理専門職は、公認心理師や精神保健福祉士、臨床心理士など、心理学や臨床心理学に関する専門的な知識、及び技術をもって、下記のような職務にあたります。

特に、公認心理師とは、国家資格であり、公認心理師登録簿への登録を受け、心理学に関する専門知識を持って、心理に関する支援、相談、助言、指導を行う人です。

企業内では、メンタルヘルスの専門家として、労働者の個別面談やメンタルヘルスに関する研修などを行っています。

メンタルヘルスに関する支援を必要としている人に対する相談や助言、観察、分析、関係者に対する相談や助言、教育や情報提供を行います。また、ストレスチェックに関して実施者を担う等、実施支援を行います。

心理専門職の職務は以下の項目にまとめられます(※12)(※13)。

・労働者に対するカウンセリング

・上司相談

・メンタルヘルス教育

・ストレスチェックの実施(*厚生労働大臣が定める研修を修了した者)




事業場の中に存在しうる産業保健活動に係る専門職についてご紹介しました。

一方で、記事を読んでいただいている方の中には、
「産業保健にかけられるコストには限界があり、十分な体制が取れない」
「直接雇用で補うとコストが合わないため、外部サービスにより効率的に体制構築したい
と感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのような場合、外部支援機関を利用することで、充実した支援に繋げることができます


産業保健活動を支援する外部機関

産業保健活動を支援する外部機関を利用することで、様々なメリットがあります。

外部機関ではストレスチェックを実施したり、メンタルヘルス支援相談を行っている機関があります。このような外部支援機関を適切に利用することは、事業場ではたらく人たちやその企業にとって非常に大きなメリットとなります。

今回は外部支援機関の代表例として、EAPについてご紹介します。


EAPとは

元々EAPはアルコール依存、薬物依存が深刻化したアメリカで、これらによって業務に支障をきたす労働者の増加への対処として発展したものです。労働者の抱えるメンタルヘルス上の課題、職場の抱える人間関係などの課題に取り組みます。

EAPには企業の中に存在する内部EAPと企業の外に存在する外部EAPの2種類があります。

外部EAPでは、メンタルヘルスケアを行う上で、事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、臨床心理士、精神保健福祉士、公認心理師などの専門家が対応します。

社外での相談が可能なため、労働者が事業場内での相談を望まないような場合に利用しやすく、メンタルヘルスの専門家からカウンセリングやコンサルティングを受けることができます。

また、外部機関の中にはストレスチェックを実施している企業もあります。2015年から労働者が50人以上いる事業場では、年に1度ストレスチェックを実施することが義務付けられました。

ストレスチェックを行い、結果を分析し、適切な対応を取ることで職場の改善やメンタルヘルス不調を未然に防ぐ効果が期待できます。


まとめ


今回は

・産業保健に係る専門職の役割と具体的な業務内容

・産業保健活動を支援する外部機関の役割と具体的な業務内容

を中心に解説してきました。

産業保健活動の幅が広いため、役割を明確にし連携していくことにより効果的且つ効率的に支援を進めることができます

また外部機関との連携を図ることで更に充実した支援が期待できます。

それぞれの専門職の強みを活かし、自社の産業保健活動強化の参考にしていただけると幸いです。

以下の記事では、具体的に産業保健活動をどのように進めているかをご紹介しています。本記事と合わせて読んでいただくことで、産業保健活動の実際をより理解していただけると思います。


  【産業医監修】産業保健活動をチームで進めるための事例を徹底解説 本記事では ・産業保健活動を効果的に進めるポイント ・現場の管理職の方に対するサポートやコミュニケーション ・社内の産業保健関係者と外部の専門機関との連携方法 についてご紹介します。 ピースマインド株式会社


  休職者が多い職場の特徴は?休職を未然に防ぐためにすべきこと こちらの記事では、以下について解説していきます。 ・職場における休職者増加のリスク ・休職を予防する4つのケア ・人事や管理職など立場別での休職者対応 ピースマインド株式会社

=参考文献=


※1 厚生労働省「産業医ができること」
※2 WORKERS DOCTORS「産業保健師とは?産業医との違いや仕事内容、導入のメリットを解説」
※3 厚生労働省 共通 3 「総括安全衛生管理者」 「安全管理者」 「衛生管理者」「産業医」のあらまし 
※4 厚生労働省「安全管理者について教えて下さい。」
※5 厚生労働省「安全衛生推進者」
※6 一般社団法人安全衛生マネジメント協会「作業主任者とは」
※7 厚生労働省「作業主任者」
※8 厚生労働省「労働安全衛生法の新たな化学物質規制」
※9 厚生労働省「新たな化学物質管理」
※10 一般社団法人 東京環境経営研究所「Q641.安衛法の化学物質管理責任者の義務や要件について」
※11 中央労働災害防止協会「化学物質SDSとは」
※12 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳「第5回 臨床心理士として」
※13 厚生労働省「公認心理師」

➤お役立ち資料のダウンロード「産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集

=参考資料=


厚生労働省「産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集」
厚生労働省「精神保健福祉士について」
中央労働災害防止協会
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所

後藤 麻友(ごとう まゆ)
後藤 麻友(ごとう まゆ)
ピースマインド株式会社  社員支援コンサルティング部 部長 EAPスーパーバイザー 公認心理師 臨床心理士 国際EAPコンサルタント(CEAP)  臨床心理学の修士号を取得後、ピースマインド株式会社に入社。EAPコンサルタントとしての臨床業務の傍ら、研究、研修、サービス開発にも従事。現在は、主にコンサルタントのマネジメントや育成支援を行っている。

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