障がい者社員の定着率を上げるためには?人事担当者にできること
令和6年4月から、障がい者雇用促進法の法定雇用率が2.5%に引き上げとなりました。また、対象となる企業の範囲も、従業員が43.5人以上の企業から、40.0人以上の企業に広がりました。令和8年には、それぞれの数値は2.7%、37.5人以上とさらに変更される予定です(※1)。
一方、厚生労働省によると、障がいを抱える社員の仕事への定着率は比較的低い現状にあるといいます(※2)。今回は、障がいを抱える社員の定着率を上げるために、人事担当者が出来ることを解説します。
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障がい者雇用促進法と企業に求められること
厚生労働省は、障がいを抱える社員の仕事への定着率は、比較的低い現状にあることを指摘しています。その中でも、募集枠が少ないなどの理由で障がいを開示せずに就職することが多く、うつ病や統合失調症などの精神障がいを抱える人の1年後の定着率は49%で、およそ2人に1人が1年のうちに職場を辞めています(※2)。障がいを抱える社員の離職を防ぐためには職場での適切な対応が求められます。
障がい者雇用の法的枠組みー改善が見られないと企業名が公開される場合も
まず最初に、障がい者雇用についてご説明します。現在企業では、障がい者社員の雇用が、障がい者雇用促進法により義務付けられています。
障がい者雇用促進法とは、全ての人が障がいの有無に関わらず個人として尊重されることを理念に制定されたもので、その目的は障がい者の職業生活においての自立を促進し、障がい者の生活の安定を図ることです。
対象は、「身体障害や知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身の機能の障害により、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける者、あるいは職業生活を営むのが著しく困難な者」で、障がい者手帳を所持している人が該当します。
障がい者雇用促進法では、企業全体の2.3%の障がい者社員を雇う義務が定められており、法定雇用率を達成している企業には、調整金が支給される仕組みとなっており、障がい者雇用を促進しています。一方、法定雇用率を満たさない企業には、障害者雇用納付金が徴収されたり、改善が見られない場合は企業名が公開されます。
雇用後の取り組み
障がい者社員を雇用した後にも、企業として対応が求められる場面があります。平成25年6月に制定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が令和3年5月に改正され、障がい者の雇用後には障がい者社員への差別の禁止と合理的配慮が義務付けられるようになりました。
合理的配慮とは、障がい者と障がい者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善する目的で定められたものです。合理的配慮の提供が義務付けられたことにより、事業主に障がい者が職場ではたらくに当たっての支障を改善するための措置を講ずることが義務化されました。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときには、この限りでない場合もあります。
オープン就労とクローズ就労とは?障がいの非公開が定着率低下の原因に
障がいを抱える方が就労する際、オープン就労とクローズ就労という2つの方法があります。
オープン就労とは、障がいがあることやその症状と対応などを企業に開示して就労することであり、反対に、クローズ就労とは障がいを企業に隠して就労することです。
厚生労働省によると、一般求人にクローズ就労で採用されたケースについては実に3か月後の定着率で52.2%、1年後でも30.8%という低い数値になります(※2)。つまり、オープン就労の方が職場への定着が高くなるということです。
オープン就労では、通院や服薬に対して理解を得ることや、勤務形態や業務内容に配慮して貰うことが出来るなど、障がいへの理解がある上での就労となるため、障がいを抱えながらもはたらきやすいといえます。
その一方で、オープン就労を選択すると、求人枠が限られてしまったり、低い水準の賃金になる場合も多く、さらには企業側に「障がい者を受け入れる体制が整っていない」と言われてしまうケースなどもあり、クローズ就労を選択せざるを得ない場合もあります。
特に、精神障がいを抱える人を受け入れる体制が整っている企業は少ないため、結果的にクローズ就労を選択することで、離職を繰り返してしまう人もいます。
障がい者社員の離職を防ぐには、オープン就労で配慮を受けながらでも、他の社員と同じようにはたらけるよう、人事担当者が対策を練っていくことが大切です。
障がい者社員の定着率を上げるためには?
では、実際に雇用した後、障がいを持つ社員への対応を通して定着率を上げるにはどのようにしていけば良いのでしょうか。ここからは、障がい者社員を雇用した後、定着率を上げる具体的な方法について、ご紹介します。
障がいの症状や配慮の共有と個人に合わせた対応
まずは、個人の障がいに対する理解が必要です。症状や、配慮すべき点などは一人一人違います。障がい者社員本人だけでなく、その主治医にも詳しく確認しておくことで理解を深めることが出来ます。
また、障がい者社員の障がいについて、現場にも詳細を共有しておくことが大切です。障がいについて深く理解をした上で採用をしても、障がいの症状や配慮などが現場に共有されず、人事担当者しか障がいへの適切な対応を理解していない状態が、よくあるケースです。
現場へ話す内容について本人としっかりとすり合わせを行い、症状や特性への正しい対応を伝えておきましょう。そうすることで、業務上でのミスや負担に対し周囲の理解を得られ、業務内容や人間関係などの労働環境を良くすることにつながります。
また、実際の業務の中で、初めは想定できなかった問題が起こることがあります。例えば、出社の際のコミュニケーションには問題がなかったものの、テレワークに伴い、チャットを用いた業務の報告を導入したところ、報告を逐一行うことが困難になったというケースがあります。その場合は、コミュニケーション手段を変更するなど、柔軟な対応が必要となります。
障がい者社員とは、1日10分でも業務の確認や調整を行っていけるよう上司に共有し、何か困りごとがあれば人事担当者も共に対応するようにしましょう。
専門家との連携|サポーターを多数設けておく
障がいを抱える社員は、企業側が配慮をしていたとしても、どうしても不可能な業務があったり、ペースが遅くなってしまうなど、様々な問題が生じてしまう場合があります。
そして、現場での上司が一生懸命に障がいへの理解や配慮に気を配っても、コミュニケーションが上手くいかない、配慮をしても問題が頻発してしまうなど、結果に繋がらず疲弊してしまうというケースが往々にして起こってしまいます。
その場合、当事者が上司と上手くコミュニケーションが取れなくなったり、職場の雰囲気が悪くなってしまうなど、障がい者社員本人も負担を感じるという悪循環に陥ってしまう可能性があります。
上記のような事態を防ぐためには、サポーターを多数設けておくことが重要です。例えば、障がい者社員の症状について、産業医やハローワークの入社後のサポートサービスなど、外部サービスにも頼ることができます。
現場の上司や人事担当者が、障がい者社員への対応を抱え込まないことで、サステナブルな対応が可能になり、社員の安定的な定着に繋がります。
まとめ
このように、障がい者社員の定着率向上のためには、本人が障がいをオープンに出来る労働環境を整えることや、個人に合わせた柔軟な対応、専門家との連携が大切です。人事担当者は、これらが可能な体制をしっかりと整えていきましょう。
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参考情報
※1 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
※2 厚生労働省 「障害者雇用の現状等」