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【臨床心理士監修】ハラスメント加害者の特徴と対処 -ハラッサーコーチングをご存じですか?-

令和2年6月2日に労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)が改正され、令和4年4月からは中小企業の事業主にも「パワーハラスメント防止措置」が義務化される中で、ハラスメント対策への関心は高まっています。
今回は、ハラスメント対策の中でも難しいと言われている、ハラスメント行為者に対するアプローチについてお伝えします

ハラッサーコーチングについては、実際にコーチングを担当する臨床心理士・公認心理師の岩﨑さんが対応した事例をもとに、ハラッサーへの対応のポイントについても触れていますので、是非参考にしてください。

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目次[非表示]

  1. 1.ハラスメントとは
    1. 1.1.データから見るハラスメントの現状
    2. 1.2.法的整備
  2. 2.ハラスメントへの対処
    1. 2.1.ハラスメント対策の流れ
    2. 2.2.被害者への支援
    3. 2.3.ハラスメント行為者の特徴
    4. 2.4.ハラスメント行為者へのアプローチ
  3. 3.ハラッサーコーチングとは?
    1. 3.1.ハラッサーコーチングの目的と特徴
    2. 3.2.ハラッサーコーチング実施までの流れとその特徴
    3. 3.3.ハラッサーコーチングで期待される効果
    4. 3.4.ハラッサーコーチングを受けたAさんの場合
    5. 3.5.ハラッサーコーチングをより効果的に実施するポイント
    6. 3.6.人事や管理職がハラッサーへアプローチする際のポイント
    7. 3.7.ハラッサーの上司や部下などが気を付けること
  4. 4.まとめ  



ハラスメントとは

ハラスメントがもたらす弊害は甚大であるため、多くの企業で経営上の重要課題としてハラスメント対策が認識されるようになりました。

ハラスメントの被害を受けた方は多大な精神的ダメージを受けることとなり、最悪の場合、働く機会を奪われることにも繋がります。また、ハラスメントが発生するような人間関係の良好でない職場では社員のモラル・モチベーションが減退し、その生産性は著しく低下すると言われています。

他にも、退職者がハラスメントを受けたことで訴訟を起こす事案も増加傾向にあるため、企業としてのコンプライアンス問題、イメージダウンといった問題も軽視することはできません。


データから見るハラスメントの現状

パワーハラスメント防止措置の義務化に伴い、ハラスメント対策として相談窓口の設置を行う企業の数は増えてきています。一方、職場でのひどい嫌がらせ、いじめ、暴行や職場内のトラブルにより、うつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受けるケースも増加しています。また、厚生労働省の民事上の個別労働紛争の主な相談内容別の件数推移によると、全体の相談のうち、いじめ・嫌がらせに関する相談件数は最多であり、パワーハラスメントの問題が顕在化していることがわかります。



法的整備

こうした状況を受け、令和2年6月に施行されたパワハラ防止法では、ハラスメントへの取り締まりが強化され、違反した場合には企業に対して勧告・指導がなされるようになりました。パワハラの定義

改正労働施策総合推進法よりピースマインド作成

この法律では、職場におけるパワーハラスメントを、「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」と定義し、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」といった6類型を典型的な事例として提示しています。パワハラ6類型あかるい職場応援団「ハラスメントの類型と種類」よりピースマインド作成


ハラスメントへの対処

この章では、実際にハラスメント対策の一環として、ハラスメント事案への対処について説明します。ハラスメント予防や備え、再発防止といった全体の流れだけでなく、被害者やハラスメント行為者への対応にも注目していきます。

ハラスメント対策の流れ

職場でのハラスメント対策は、予防・備え・フォローアップという目的に応じて、3段階に分けることができます。

パワハラ対策フロー

ピースマインド作成


予防の段階では「トップのメッセージを出す」「ルールを決め、周知する」「従業員を教育する」ことに取り組みます。備えの段階では「相談窓口や解決の場の設置」を行います。フォローアップの段階では「再発防止に向けた取り組み」を講じることが重要です。
ハラスメント対策の最も大切なポイントは、ハラスメントを起こさない環境を整えることと言えるでしょう。しかしながら、ハラスメントが起きてしまった場合には、被害者とハラスメント行為者それぞれに対して適切なケアやアプローチを行い、迅速に課題解決することが必要です。


被害者への支援

多くの場合、被害者や周囲の人からの相談によってハラスメント被害が発覚します。相談を受けた場合には、自分が解決してあげようとするのではなく、相手の話を受け止め、相談窓口に繋げることを念頭に置きましょう。また、相談を受ける際には、「セカンドハラスメント」と呼ばれる「相談者に非があるように指摘する」「相談内容をむやみに他者に話す」といった行為はしないように注意しましょう。

ハラスメントが相談窓口に伝えられることで、専門家や人事がチームとして、被害者に対して必要な支援やケアを行い、必要に応じて配置換えといった職場環境の改善を行います。


ハラスメント行為者の特徴

ハラスメント事案同様、ハラスメント行為者についても、様々なケースがあります。以下に代表的な例を挙げてみました。
・行為者がハイパフォーマーであり、部下にも同様の働きぶりを求めるあまり「過大な要求」をしてしまった。
・世代間や文化間のギャップを背景に、指導を超えた不適切な言動をしてしまった。
・部下に対して執拗に感情的な叱責を繰り返してしまった。
このように、ハラスメント行為者と言っても、個々が抱える課題は様々です。課題や行為者の特徴に応じて、必要な対処法は異なりますが、多くのハラスメント行為者に共通していることは、「自分自身の常識を相手にも押し付け、相手の立場を考慮していない」点だと言えます。


ハラスメント行為者へのアプローチ

ハラスメント行為者に対しては、ハラスメント行為をした事実を確認するための面談を実施後、必要な指導や処分が行われます。そのような指導の一巻として、ハラスメント行為者=ハラッサーに対するコーチング、所謂ハラッサーコーチングが行われます。ハラッサーコーチングの目的は、再発防止のため、行動変容を促すことです。次の章では、ハラッサーコーチングについて臨床心理士の岩﨑さんから詳しく聞いていきたいと思います。


ハラッサーコーチングとは?

ハラッサーコーチングの目的と特徴

ハラッサーコーチングとは、ハラスメント行為者に対するコーチングのことです。一般的には再発防止を目的に事象の振り返り、改善点の検討・実践を行うことが目的とされます。また、企業からは、教育指導や行動改善プログラムの一環として依頼されることが多くあります。

ハラッサーコーチング実施までの流れとその特徴

具体的にはどのように実施するのですか?

通常はハラッサー1人に対して1名のコンサルタントが担当します。コーチングの回数は契約によって異なりますが、1回50分、回数はおおよそ5回で実施することが多いですね。


コーチングの実施に至る経緯はどのような流れなのでしょうか?

まずはハラッサーコーチングの申し込みをされた方、主には人事担当者や当該ハラッサーの上司にあたる方から、コーチングをご依頼いただく経緯や問題を伺います。これを弊社では『人事管理職相談』と呼んでいます。人事管理職相談を通して、会社・同僚・本人のリスクや本人の認識を確認したうえで、コーチングへの期待値やコーチングで目指すゴールの設定、動機づけを行うことが目的となります。

そして、人事管理職相談でコーチングの実施の合意形成が為された後に、本人からコーチングを申し込んで頂く流れとなります。

ハラッサーコーチング開始までの流れ

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ハラッサーコーチングで期待される効果

ハラッサーコーチングを通して得られる効果はどのようなものですか?

ハラッサーコーチングは、ハラッサーの行動変容を目的としているため、具体的には以下のような効果が得られるといえます。

・社員の問題行動再発防止
・企業、職場、本人のリスク低減
・離職率の低減
・会社の貴重な人材を損失するリスク低減
・行動変容により、ハラッサー自身もキャリアや信頼感を得る

また、コーチング開始前後に、ハラッサーの同意を得た上で紹介者に進捗や目標達成度の報告など連携することで、コーチングをより効果的に実施できる環境を整えるようにしています。


一般的なハラッサーコーチングの流れ

例えば5回のハラッサーコーチングの場合、どのような流れで進むのですか?

セッション初回ではラポール形成、事象の振り返り、自身の意見・捉え方の確認、ゴール設定を行います。
ラポール形成というのは、フランス語の「橋を架ける(Rapport)」という言葉に由来し、コンサルタントとハラッサーが心の通い合った状態を作るという意味です。
ハラッサーコーチングの場合は、本人の不適切な言動に関する行動変容が目的のため、会社からの指示でコーチングを受ける場合が多く、ハラッサー自身の心持ちとしては、警戒感を抱く場合も少なくありません。したがって、コンサルタントは、ハラッサーの敵ではないこと、変化のために必要なことを共に見つけ出すパートナーであることを初回で知っていただく工夫をすることで、より効果的なコーチングの実施を目指します。

中盤にかけては、課題点に対する行動改善と進捗確認、葛藤が生じた際には丁寧に整理することを心がけます。
終盤では、目標達成度・本人の所感を確認し、今後の長期的なゴールを検討して終結となります。
コーチング実施中、および終了後、本人の同意を得た上で、紹介者に進捗や目標達成度の報告連携を行うことで、より効果が出ることがあります。

ハラッサーコーチングの流れ2

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ハラッサーコーチングを受けたAさんの場合

この章では、実際にコンサルタントの岩﨑さんが担当したケースをもとに、ハラッサーコーチングの内容についてより詳しく説明します。

※相談内容を元にプライバシーを配慮して修正を加えてまとめています。


Aさんの事例について教えてください。

今回お伝えする事例の場合は、退職した部下からAさんに関するハラスメントのレポートが上がったことが、実施のきっかけとなりました。社内調査でハラスメントの事実は発覚しなかったものの、会社が設定する行動改善プログラムの一環として、Aさんへのハラッサーコーチングをご依頼頂きました。

【コーチング実施前】
Aさんの上司と人事管理職面談を実施し、下記を確認しました。
・経緯や問題
・コーチングへの期待値
・ゴール設定
・会社、同僚、本人のリスク
・本人の認識
面談を通して、「既にAさん本人と上司の間で、明確かつ実現可能な目標設定、動機づけ、直面化が行われていること」「各セッション後、本人から上司に報告する約束をしていること」がわかりました。

【目標設定】
Aさん自身がハラッサーコーチングに対して前向きな姿勢であることによって、良いスタートを切ることができたといえると思います。目標設定は、以下の2点に絞りました。
・他者への感情的な言動を減らす
・部下の自主性を促す雰囲気・環境を作り、チームを育てる。

【コーチングの実施】
5回のコーチングは、図のような流れで行いました。
特に印象的だったことは、2回目のセッションです。1回目のセッション時から、ご自身の行動を客観的に捉えて、気づきを得られていましたが、2回目にお会いした時には、すでに行動変容が始まっているという印象を受けました。

ハラッサーコーチング事例

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【結果】
5回のコーチングを通して、Aさんご本人は、アグレッシブな人の感情に振り回されやすいとの気づきを得られたことで、相手を尊重した上で自己主張を行うことや積極的な傾聴の姿勢を取るようにするといった工夫によって感情や行動面をコントロールできるようになりました。5回のセッション中に、既に本人の行動変容による職場の変化が出てきた点も、良かった部分かと思います。

また、Aさんの上司から見ても、コーチングを開始して以降、本人の悪い言動は見られなくなり、会議の場できちんと感情や言動をコントロールできるようになったと伺いました。

ご本人も継続的な取り組みを宣言されていましたし、Aさんの上司も悪い行動を減らすだけではなく「良い言動」を積極的に増やしてほしいと考えているとのことなので、ハラッサーコーチングが効果的だったといえるかと思います。



ハラッサーコーチングをより効果的に実施するポイント

ご紹介いただいた事例のように、ハラッサーコーチングを効果的に実施するコツはありますか?

ハラッサーコーチングが効果を上げた背景には以下のようなポイントが挙げられるかと思います。
・Aさんの上司による目標設定、動機づけ、直面化が明確だったこと
・上司とAさん本人のラポール形成がなされていたこと
・Aさん本人のモチベーションや問題意識が高く、セッション外でも積極的に課題に取り組んだこと
・企業文化と本人の性格傾向、文化などの視点から、担当コンサルタントが葛藤や課題感を丁寧に整理したこと
・Aさんの上司、Aさん本人、担当コンサルタントタント全員が同じ目標に向かって取り組んだこと


人事や管理職がハラッサーへアプローチする際のポイント

ハラッサーに対して、ハラスメントの事実を直面化させることは、非常に大変なことだと思いますが、その時に心がけたほうが良いことはありますか?

人事担当者の方は、ハラッサーへの期待値やゴール(目標)設定を明確にした上で、会社として対応すべき部分と、専門家や外部機関に依頼すべき部分との線引きをすることが大切だと思います。ハラッサーコーチングの実施に際しては、現実に即した目標設定と動機づけを率直に行うことがポイントです。

また、ハラッサーが役職上位者の場合には対応が難しいといったケースもあると思いますので、そのような場合には、対応方法についてEAPの窓口などにご相談して頂くと良いと思います。

人事が気を付けるポイント

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ハラッサーの上司や部下などが気を付けること

ハラッサーの上司や部下など、周囲はどのような接し方をするのが良いのでしょうか?

まずは、ハラッサーのハラッサーにならないように注意してください。ハラスメントの事実を責めるのではなく、本人のサポーターとして改善に目を向け、本人の改善に向けた努力に対してタイムリーにポジティブなフィードバックをしましょう。そのような反応が、本人の改善活動へのモチベーションを継続させ、行動改善を促すことに繋がります。

上司や部下が気を付けること

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まとめ  

ハラスメントが起きてしまった場合には、迅速かつ適切な対応が求められます。被害者へのケアはもちろん、再発防止の観点からは加害者の行動変容を十分に行うことが重要です。日頃からのハラスメント防止を促進する取り組みに加え、ハラスメント相談窓口の利用促進や関係する機関との連携を定期的に確認するとよいでしょう。

ピースマインドでは、ハラスメント対策の各ステップを専門家チームが伴走して支援します。ハラスメント対策の「準備」として、企業内での周知・社内の実態把握、「施策」として研修の実施・相談窓口の設置、「対処」としてハラッサーへの行動変容促進コーチングやハラスメント被害者へのケアのサポートを致します。ハラスメント対策に課題をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。

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岩﨑 優里 (いわさき ゆり)
岩﨑 優里 (いわさき ゆり)
ピースマインド株式会社 コンサルティング部EAPコンサルタント公認心理師・臨床心理士 大学・大学院で臨床心理学を学び、大学院修了後、臨床心理士として医療・福祉・教育の各領域で経験を積む。ピースマインド株式会社では、EAPコンサルタントとして、顧客企業様の従業員のメンタルヘルス向上、職場でのパフォーマンス改善をサポート。 専門分野:産業臨床、医療臨床、福祉臨床、学生相談、多文化間心理学、異文化適。

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