【事例で解説】産業医×EAPで効果的なメンタルヘルス対策を行うには?
「従業員がメンタルヘルス不調で突発休を繰り返している」「メンタルヘルス不調だった従業員が休職してしまった」といったお悩みを抱えた人事の方からのお声を多く聞きます。
従業員のメンタルヘルス不調は、欠勤や生産性の低下、休職や退職などの問題を引き起こすことから、企業として積極的に取り組む必要のある課題であり、産業医を中心とした企業の産業保健体制を活用して取り組む必要があると言えます。
しかし、産業医と一括りに言っても、専門分野や経験は様々であり、全ての産業医がメンタルヘルスに精通しているとは限りません。そこで、自社の産業医の得意分野に応じて、どのような体制構築が必要か検討することが必要です。
本記事では、産業医・EAPと連携したメンタルヘルス対策について、事例を通して解説します。
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産業保健領域におけるメンタルヘルス対策の課題
なぜ今メンタルヘルス対策なのか?
精神障害による労災認定数や、メンタルヘルス不調により従業員が休職・退職した事業所は増加傾向にあるなど、近年企業におけるメンタルヘルス課題は増加傾向にあります。
しかし、現状の産業医の活動内容は、健康診断や健康相談など、身体健康に関するものがメインになっています。(※1)そこで、産業医の関わりが必要なメンタルヘルス領域において、対策の実施や対策を行うための体制の構築が十分に進んでいないという需要と供給のギャップが生じてしまっているのです。
なぜギャップが埋まらないのか?
メンタルヘルス対策への需要と供給のギャップはなぜ埋まらないのでしょうか?
原因として以下のようなものが上がっています。
1つ目はリソースが足りないというものです。
人事部門は通常の人事労務管理や従業員の採用・育成・評価等の業務を担っており、それらに加えてメンタルヘルス対策にも取り組むとなると、リソースが不足してしまうことが考えられます。
また、メンタルヘルスケアの「ラインケア」にあたる取り組みは、現場の管理職が担うことが期待されますが、現実にはマネジメント業務で手一杯となり、部下のメンタルヘルスの予防や対処まで手が回らないといったケースも少なくありません。
メンタルヘルス対策に特に注力している企業では、保健師や看護師、心理士などの産業保健スタッフを自社で雇用している場合もありますが、メンタルヘルス対策に取り組みだしたばかりの企業では、「専門職でない少数の社員で専門部署を立ち上げる」といった事もあるでしょう。この場合、メンタルヘルス対策の知見が豊かな産業医を選任していたとしても、産業医を十分にサポートできず、効果的な対策を実施する体制が整わない場合があります。
それ以外にも、自社で選任している産業医がメンタルヘルスを専門領域としていないなど、メンタルヘルス対策に精通していないという場合もあります。
2つ目は取り組み方が分からないというものです。
「基本的なメンタルヘルス対策はしてきたが、いまひとつ効果がでない。どのように改善すればよいのか分からない。」という声も多く聞かれます。特にメンタルヘルス対策に力を入れ始めたばかりの企業では、ノウハウも少なく、効果的なアプローチが見つからないこともあります。
企業として取り組みや改善の指針を定められないことで、メンタルヘルス対策の担い手である産業医などの産業保健スタッフに対して、どのような役割で何をしてほしいのか適切に依頼を行えないといった事象にも繋がります。
このような課題に対しては、EAPなどメンタルヘルス対策に精通した外部リソースを導入することで、本来の目的に立ち返り、体制や進め方を整理することができます。
※EAPについて知りたい方はこちら!
次の章では改善に向けた具体的な行動を事例を通してご紹介します。
メンタルヘルス対策の改善に向けた取り組み
この章では、EAPの介入により産業保健体制における役割を見直し、復職対応がより効果的に実施されるようになったケースの事例をもとに、産業医とEAPの連携による具体的な改善行動について解説します。
課題を乗り越える方法とは?
前の章で、メンタルヘルス対策を実施する上での課題として「リソースが足りない」「やり方が分からない」という点を挙げましたが、この課題を乗り越える方法として以下の2点を紹介します。
1点目は産業医体制を見直すというものです。
産業医は産業保健スタッフの中心となる存在です。職場でメンタルヘルス対策を推進する際に、メンタルヘルスに精通した産業医がいれば助言を受けることが期待できます。また、メンタルヘルス不調の従業員への対応や復職支援など、これまで人事が担ってきた対応の一部を依頼することもできるでしょう。
もし産業医がすでにいらっしゃる企業でリソースが足りていない場合は、必要に応じてメンタルヘルスに強い先生を嘱託で追加して契約することもよいでしょう。
2点目は産業医をサポートする体制を整えるというものです。
産業医がメンタルヘルスに精通していない場合でも、産業医をサポートする体制を構築することで、メンタルヘルス対策を行いやすくすることができます。具体的には、EAP等の外部のリソースを導入することで、メンタルヘルスに関する専門的知見に基づいた支援を受けながら、不足していたリソースを補うことが可能です。
次の部分では、メンタルヘルスに精通した産業医がいながらも休復職に関して課題を抱えていた企業に対して、EAPコンサルタントが加わり、産業医との連携体制を構築したことによって支援させていただいた事例を紹介します。
メンタルヘルス対策に精通した産業医とEAPの連携で休復職対応を見直した事例
ご紹介するのは、メンタルヘルス不調によって休職者が増え、さらに復職しても休職前ほどパフォーマンスが発揮されない、再度休職に入ってしまう、さらには退職してしまうという事態が続いたため、メンタルヘルスに精通した産業医とともにメンタルヘルス対策を見直した事例です。
この事例では、①関係者の役割を分担する②ゴールを明確にして共有する③社内のルールを策定する、という3点に注力したことで、メンタルヘルス不調による休職者の再休職を減らし、復職後に期待以上のパフォーマンスを発揮することができるようになりました。以下でそれぞれのポイントについて解説します。
①関係者の役割を分担する
1点目は関係者の役割を分担することです。
それまでは、復職の判断は本人へのヒアリングを元に上司と人事だけで話し合って決めていました。しかし再休職が相次ぎ、また復職した従業員のパフォーマンスも休職前ほど発揮されなかったことが多かったため、復職の判断をする体制を見直しました。外部EAPを調整役として、産業医や人事、上司の役割を整理しました。役割を分担し明確にすることで、休復職対応における負担の偏りがなくなり、それぞれの役割に専念することができます。
主治医による療養に関する指導を受けて回復に務めることが主になる休職期間については、上司が窓口となり、従業員と定期的に連絡を取り合うようにしました。従業員との間で交わされたやり取りについては、適宜上司から人事や産業医にも伝え、情報が共有されている状態を作ります。窓口役を上司が担うことで、従業員の状態を理解し、職場復帰に向けたコミュニケーションが円滑に進むというメリットがあります。
従業員の状態が改善し、復職を検討する際には、産業医が「就業が可能かどうか」という観点から従業員の状態を評価し、従業員本人には助言を行い、人事には復職に関する意見を述べます。主治医の判断だけで復職を進めずに、業務にも理解のある産業医との面談を行うことで、「復職したけどすぐに体調を崩してしまい、働けなくなってしまった」という事態を防ぐことができます。
最終的な復職の決定は、産業医からの意見を踏まえ、人事が行います。外部EAPなどの社外リソースは、意思決定を行う人事や、従業員を迎え入れる上司に対して、心理面から専門的な助言や支援を行いました。復職者だけでなく、周囲のサポーターの不安や懸念に対しても適切な支援を行うことで、適切な支援のもと、再休職の予防や復職後のパフォーマンス向上に役立てることができます。
②ゴールを明確にして共有する
2点目はゴールを明確にして共有することです。
この企業では、復職可能と判定されたものの、また数ヶ月後に状態が悪化し、再度休職に至るケースが多くありました。原因の一つとして考えられるのは、主治医の診断をもとに「今働くことができる状態か」という点に絞って復職を判断していたことがあります。職場環境や職務内容の把握が難しい主治医の視点からは、「元の職場に復帰し、継続して働くことができるのか」を見極めるのは困難です。そこで、復職判定の際には、職場について熟知している産業医と復職支援の専門家であるEAPコンサルタントとの検討の場を設け、「安定して就業継続できるか」を基準に進めることにしました。
従業員との面談では、自分自身の状態を理解し、特性を踏まえて自身の状態をコントロールすることができそうかを確認することで、段階的な復職プランも見据えた判断が可能になりました。
③社内のルールを策定する
3点目は社内のルールを策定することです。
それまで、休職から復職までのフローはそれぞれのケースに応じて様々でした。中には現場に一任することで、再度同じ状況に陥ってしまうケースもあり、復職後のパフォーマンスが安定しないという課題がありました。そこで、①②でお伝えした体制や関わり方、判断のポイントを一律のルールとして定めることにしました。
ルールを定めたことにより、休職者の課題が見過ごされたまま復職に至るリスクが無くなりました。支援側の体制としてもそれぞれの役割が明確になったことで、適切な情報共有が行われ、専門的知見を活かして安定した判断を行うことが可能になりました。
さらに、関係者間の情報交換や意見交換が活発になりました。休復職対応に関しては、関係者から「リワークプログラムを活用するのはどうか」という提案が出たことで、この企業では、日常生活が送れるようになった段階で外部のリワークプログラムを活用することを決めました。リワークプログラムを活用することによって、就業が可能になるだけでなく、休職前より高いパフォーマンスを発揮できる状態で職場に復帰する準備をすることができるようになりました。
まとめ
メンタルヘルス対策は専門性が必要で、かつ相当の労力がかかる部分です。しかし、産業保健スタッフを中心に、産業保健に関わる関係者の役割を整理して、外部の専門リソースを有効に活用することで解決することができます。
ピースマインドにはメンタルヘルスケアの中心を担うことが出来るような産業医が多数登録しております。また、産業医と心理専門職によるEAPとの連携によって、職場のメンタルヘルスに関する問題を解決に導く産業医業務受託サービスも提供しております。
メンタルヘルス対策にお困りの場合は、産業医の見直しやEAPの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
また、上記事例以外にも、様々なメンタルヘルス施策取り組みのポイントを以下の記事でまとめていますので、ぜひ参考にご覧ください。
※休復職者対応については以下の3つの記事で解説しています。
※ストレスチェックの実施者対応については以下の記事で解説しています。
※ストレスチェック後の医師面接指導については以下の記事で解説しています。
参考資料
※1:産業保健の現状と課題に関する参考資料