異動の時期はメンタル不調が増える?その要因と人事ができるケアを解説
異動の時期は、毎年メンタル不調になる方が増える傾向にあります。
健康経営や人的資本経営が重視されるいま、異動をきっかけに休職者が増えてしまうことは、ご本人にとってはもちろん、企業にとっても大きな損失となります。本記事では異動によるストレスについて解説します。
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異動によるストレスが不適応につながる?
環境が変化すると人はストレスを感じやすく、異動や転勤など大きなイベントの際は特にストレスを感じる可能性が高くなります。
また、昇進のような一見ポジティブな出来事であっても、環境が変化することで、気づかないうちにストレスを抱えていることがあります。
一般的に、ストレスは3つの要素に分解して考えられます。
ストレスを引き起こす原因である「ストレス要因」、ストレス要因に対処しようとする「ストレス対処」、その結果として現れる「ストレス反応」です。
ストレス要因にうまく対処できれば問題ありませんが、できない場合には蓄積したストレスがやがて心身へ悪影響を及ぼす可能性があります。
異動の場合、異動に伴う多くの変化がストレス要因のかたまりとなっているといえるでしょう。
異動に伴う3つのストレス要因
ストレス要因の例には「暑さ」「寒さ」などの物理的なものから「疲労」「睡眠不足」といった生体的なものなど様々なものがあります。
異動に伴うストレス要因は、大きく以下の3つの「変化」に分類できます。
次の章では、異動に伴うストレス対処とストレス反応の例を見てみます。
異動をきっかけに不適応になる3つの例
「分からないことが聞けない…」不満・不安から不適応になるケース
新入社員の場合、多くの企業では配属部署でのOJTや研修が丁寧に実施されますが、異動や中途入社については支援体制が整っていないこともあります。配属初日から業務を任されたものの「そもそもメンバーや業務内容がよく分からない…」と困っている方は多くいらっしゃいます。
また、異動の場合には「聞きたくても聞けない」と悩まれる方も多いようです。周りに言い出せない理由として、「質問するとできない人だと思われてしまうのではないか」「忙しそう」「誰に聞いて良いか分からない」といった不安や遠慮があります。
「よし頑張るぞ!」が逆効果?ハネムーン期から不適応になるケース
「ハネムーン期」とは、環境の変化が新鮮に映り、何においても刺激的で楽しくなる時期を指します(※1)。普段よりも力を発揮しようとし、活動的になることが特徴です。
異動においては「新しい部署で頑張ろう!」と気持ちが盛り上がっていくものの、実際の業務や人間関係が思うように上手くいかず、焦りに繋がるケースが見られます。「どうにかしなきゃ」「知識が足りないからだ」と思い休日や休み時間も勉強する等、無理したはたらき方をしてしまうことで、不調に繋がりやすくなってしまいます。特に現代では、インターネット上で日々新しい情報が蓄積されるため、業務に関する情報を業務時間外にも追い求め始めると、プライベートとの切り分けがしにくくなってしまいます。
「思っていた環境と違う…」カルチャーショック期から不適応になるケース
「ハネムーン期」を経ると「カルチャーショック期」に入るとされています。新しい環境になかなか慣れず自信を失っていき「この部署でやっていけるのか?」という不安が高まる時期 です。
ここで、それまで蓄積した疲れやストレスが表出し、不適応を起こしやすくなるとされています。本格的なメンタル不調や症状が出やすくなり、場合によっては医療の専門家に繋げる必要も出てくるため、ハネムーン期からカルチャーショック期に至る間の段階で、適切なケアを受けることが求められます。
カルチャーショック期から適応期になるには?
新しい組織に適応できる、「適応期」に入るには、自身の状況を周りに相談することが大切です。例えば上司に「いま業務が多くて大変で…」と相談できれば、オーバーフローする前に業務量を調整してもらえる可能性があります。また、上司が自分に何を期待しているかを確認しておくと良いでしょう。不適応になる方は、周りからの期待を高く見積もってしまう傾向が見られます。実際に上司の方へ確認してみると、自身の認識と全く異なっているかもしれません。
相談先は社内外の相談窓口でも問題ありません。「不適応」の時期は客観的に自分を見ることが難しくなる傾向があります。第三者の視点で状況や心境を整理してもらえる機会を有効活用できると良いでしょう。
不適応への対処にあたり人事が知っておくと良いこと
異動の時期における不適応への対策として、まずはセルフケアに関する教育が欠かせません。それに加えて、上司によるラインケアや同僚のサポートを強化し、社内外の相談窓口などを活用した早期対応の仕組みづくりも重要です。
セルフケアによるストレスとの付き合い方を周知する
セルフケアは、以下の3つの要素で説明されます。
①ストレスを知る
②ストレスに気づく
③ストレスに対処する
セルフケア研修を導入し教育を行っている企業も多いかと思いますが、
新入社員の入社のタイミングや、復職者支援のため等、対象者が限られている場合もあります。管理監督者など、若手以外にとってもセルフケアは大切ですので、階層を限定せずに実施することをお勧めします。
➢【コラム】セルフケアで社員のメンタル不調を予防・支援するには?必要性と方法をご紹介
ラインケアの重要性を管理監督者に伝える
管理監督者による部下の不適応対策として、ラインケアが挙げられます。
上司は、新しく異動してきた社員がストレスを抱えやすい環境にいることを知っておく必要があります。異動から半年~1年は特に気にかけて様子を見ておき、周りの社員にも部下の状態をさりげなくヒアリングするとよいでしょう。特に、OJT担当社員との相性については上司がよく観察しておく必要があります。
実際に不調のサインが見られた際は、誰とどのようなフローで連携すれば良いか上司が把握していることも重要です。特に疾病に関する事象は専門家に任せるべき領域です。自社の場合であれば、どの専門家や窓口に繋げるべきか、管理職が把握できている状態にしておきましょう。
有効な手段として、ラインケア研修等の実施がおすすめです。
➢【コラム】ラインケアとは?社員のメンタルを守るために「人事・上司の方が」出来ること
社内・社外の資源によるケアで日頃の悩みを整理する
相談窓口では本人の悩みを聞き、セルフケアの方法を伝えたり、専門家につないだりすることができます。本人だけでなく、受け入れ先管理職の課題を整理し、ラインケアに関するサポートをすることも可能です。
社外窓口であれば、社内の方に言いにくい内容も話しやすくなることもあるため、相談のハードルを低くする効果が期待できます。
➢【コラム】EAP(従業員支援プログラム)とは? 臨床心理士が、カウンセリング開始から課題解決までのプロセスを解説します。
まとめ
異動におけるストレスが発生する要因といくつかの対処法についてお伝えしました。異動や昇進の時期には例えそれがポジティブな出来事であっても、環境変化によるストレスを抱えやすくなります。
セルフケアやラインケア教育を充実させ、ケアの体制を整えて、ぜひ不適応の起こりにくい職場づくりをお進めください。
参考情報
※1 Lysgaard, S. (1955). Adjustment in foreign society: Norwegian Fullbright grantees visiting the United States. International Social Science Bulletin, 7, 45- 51.