職場の雰囲気の悪さはインシビリティ(礼節の欠如)が原因?ハラスメントが起こりにくい職場をつくるコミュニケーション改善施策とは
近年、ハラスメント一歩手前の、グレーゾーンな事案に関する相談が増えています。特に多く寄せられるのが、職場の雰囲気を悪くする社員によって、社内のコミュニケーションが悪化しているケースです。
生産性の高い職場をつくるには、ハラスメントに該当するような言動はもちろん、従業員同士、特に上司と部下のコミュニケーションの質を向上させることが、必要不可欠です。今注目を浴びる「インシビリティ(礼節の欠如)」の観点から、グレーゾーンなコミュニケーションが常態化しているチームリーダーの特徴や、介入方法とその効果をご紹介します。
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なぜ今「インシビリティ」が注目されているのか
インシビリティとは、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた、失礼で無作法な言動のことです。パワハラ発生の前段階に位置するものであり、改善の余地がある言動とされています。
<インシビリティ行動の例>
・挨拶したのに無視する
・すれ違ったときに嫌悪感に満ちた表情でみつめる
・いじる、からかう
・相手の意見に関心を示さない
・相手の担当業務に関して、相手の判断を信用しない
・未婚の人、結婚していてこどもがいない人に対して、「結婚しないの?」「こどもつくらないの?」と聞く
・他の人のことは「さん」付けで呼んでいるのに、特定の人だけ「おまえ」「~くん」「~ちゃん」と呼ぶ
インシビリティな言動を受けたことがある日本人労働者は約半数に上るとされています(※1)。さらに、インシビリティな言動を受けた人は、自身も他人に対してインシビリティをする傾向があることも報告されています(※2)。このようにして、いわゆる「ギスギス職場」が蔓延してしまうのです。
昨今、問題視されているハラスメントの事例には、グレーゾーンな言動が挙げられます。組織のインシビリティを改善することは、グレーゾーンな言動を変えることであり、ハラスメントが起こりにくい職場づくりに有効なアプローチの1つとして期待できます。
礼儀正しい言動が増えても無礼な態度は減らない
部下や同僚に対し、普段は礼儀正しい態度を取れていても、繁忙期や余裕のない時期になるとインシビリティな言動が増えてしまうケースも多々見受けられます。
シビリティ(礼儀正しい態度)が増えてもインシビリティな行動が減るとは限りません。根本的にアプローチするのであれば、インシビリティ行動をシビリティ行動に「置き換える」視点が大切になります。
インシビリティへのアプローチが効果的|ハラスメントを起こしやすい上司の特徴とは
リーダーシップに着目した研究からは、ハラスメントを起こしやすい上司の特徴が分かっています。特に「専制型」「脱線型」「放任型」と呼ばれる傾向の場合、部下とのコミュニケーションが取れておらず、インシビリティな態度が共通して見られます(※3)。
専制型リーダーシップ
「専制型」は部下を支配下に置き、全て自身の言うとおりにさせるタイプを指します。部下を追い込みすぎるが故に、メンタルヘルス不調にしてしまったり、自尊心を傷つけたりするだけでなく、怒りやフラストレーションを蓄積させることに繋がり、結果的に組織の生産性を低下させる可能性があります。
脱線型リーダーシップ
「脱線型」は、それまでは適切なリーダーシップを持っていたものの、新しい環境の変化に対応できなかった等の理由によって、管理職としての道から”脱線”してしまうタイプです。意図しないパワハラ的な言動が目立ちます。自身の利益を中心に考える傾向があり、何が部下や組織にとって良いかを考慮できないため、適切なマネジメントに繋がらない特徴を持ちます。
放任型リーダーシップ
「放任型」の特徴は、業務へのフィードバックをしないため、部下のモチベーションを高められない点が特徴です。コミュニケーションが希薄であることから、部下は「自分は嫌われているのではないか」「指導してくれないということは、自分を辞めさせようとしているのではないか」と不安になる傾向があります。適切な指示がないため、職場が不安定になり、従業員同士の衝突が起きやすい状態になります。
インシビリティの改善に有効な2つの施策
CREWプログラム(※4)
Civility, Respect, and Engagement in the Workplace(通称CREW(クルー)プログラム)とは、従業員同士の対話を通して職場の風土改善を目指す、企業向け研修です。病院や郵便局、コールセンターなど、アメリカやカナダの1200以上の職場で実施されており、半年間の介入実験では、従業員の不満や、燃え尽き、欠勤が低減し、患者満足度が高まった結果が出ています。
【CREWプログラム実施マニュアルはこちら】
CREWプログラムでは、「互いに丁寧に接するとはどのようなことか」や「職場の風土や環境を改善するためにできることは何か」といった、職場でのシビリティ行動について考えます。1週間に1回15分間や、2週間に1回30分間など、職場の取り組みやすい時間で継続的に実施でき、3ヶ月間以上セッションを積み重ねることが望ましいとされています。長期的に風土改善へ取り組みたい組織に合うプログラムといえるでしょう。
インシビリティ・マネジメント研修(ピースマインド提供)
全2回からなる、マネジメント層向けの研修です。インシビリティ研究の第一人者であり、「パワハラ上司を科学する」の著者でもある、神奈川県立保健福祉大学大学院 津野香奈美准教授がサービスを監修しています。対話やロールプレイを通して受講者が体系的に学べる点が特徴です。
インシビリティ行動をシビリティ行動に置き換えることを重視しているため、以下のプロセスを踏んだ研修内容になっています。
<インシビリティ・マネジメント研修の構成(行動変容のプロセス)>
①自分がインシビリティ行動をしていないかを振り返る
②「行動」を変える
③インシビリティ行動に繋がりやすい自分の自動思考に気づく
本研修でフォーカスするのは、ハラスメント防止に関する知識のインプットよりも、代替行動の再現性を高めることです。インプットを繰り返してもなかなか現場が変わらない職場において、受講者の行動変容を目指す際の有効な施策となり得ます。
【ピースマインドのインシビリティ・マネジメント研修】
まとめ
職場の雰囲気を悪くするインシビリティを切り口に、心理的安全性が低く、ハラスメント問題が生じるリスクの高い組織へ介入する研修等をご紹介しました。
ハラスメント問題に対し、様々なアプローチを試してみても効果が出ない場合は、組織の状態や問題の要因と施策がマッチしていない可能性があります。ぜひ「組織内でインシビリティが起きていないか」の視点から状況を把握し、現状の施策が十分なものであるかを見直すきっかけとしてみてください。
【ピースマインドのインシビリティ・マネジメント研修】
【資料】人事の皆さまの疑問にも回答:なぜハラスメントがなくならないのか?インシビリティ(礼節の欠如)から考えるギスギス職場の風土改革
参考文献
※1 Tsuno K, Kawakami N, Shimazu A, Shimada K, Inoue A, Leiter MP. Workplace
incivility in Japan: reliability and validity of the Japanese version of the modified
Work Incivility Scale. J Occup Health. 2017 May 25;59(3):237-246.
※2 Eva Torkelson, Kristoffer Holm, Martin Bäckström, and Elinor Schad (2016)a Factors contributing to the perpetration of workplace incivility:the importance of organizational aspects and experiencing incivility from others
※3 津野 香奈美「パワハラ上司を科学する」
※4 島津 明人「CREWプログラム 実施マニュアル」