【人事担当者必見】介護離職をどう防ぐのか?両立支援の取り組み事例とポイント
少子高齢化や働き方・家族のあり方の多様化に伴い、介護と仕事の両立を必要とする従業員への支援の必要性は高まっています。介護による離職は大きな損失となるため、企業にとっても介護と仕事の両立支援に積極的に取り組むことが求められます。
本記事では、介護離職の背景や影響について触れながら、介護に直面している従業員にどのような支援ができるのかについて事例とともにポイントをお伝えします。
目次[非表示]
- 1.「介護離職」とは?
- 2.介護離職の影響
- 2.1.経済的損失
- 2.2.周囲のメンバーへの影響
- 3.ビジネスケアラーを支える『仕事と介護の両立支援対応モデル』
- 4.【事例紹介】介護に直面している従業員への支援
- 4.1.対応のポイント
- 5.まとめ
- 6.サービス紹介
「介護離職」とは?
介護と仕事の両立が難しく、介護を理由に離職することを「介護離職」と言います。
日本では高齢者の人口が増加し続けており、介護保険制度における要支援・要介護認定者数も増えています。また64歳以下の労働者人口の減少や、働き方の多様化に伴った共働き世帯の増加も見込まれます(※1)(※2)。そのため、仕事と介護を両立する従業員への支援がますます重要といえるでしょう。実際に、介護や看護が理由で離職する人の数は増減を繰り返しながらも約10万人にのぼり、今後さらに増加することが予想されています(※3)。
介護離職の直接的なきっかけとしては以下が挙げられます。
介護離職の影響
経済的損失
経済産業省は、2016年から「介護離職者数ゼロ」を目標に掲げ、介護離職を防ぐための取り組みを進めてきました。しかし同省の推計によると、仕事をしながら介護を行う「ビジネスケアラー」の存在が相当数あることが明らかとなりました(※4)。
2020年時点で、家族介護者の総数は628万人、うちビジネスケアラーは253万人とされています。さらに、2030年には家族介護者の合計は833万人に達し、そのうちのビジネスケアラーは318万人に増加すると予測されています。
特にビジネスケアラーが最も多いとされる45~49歳の世代では、2020年時点で65万人が該当し、2030年には171万人となり、約2.6倍に達すると予測されています。
この世代は企業の中核を担う層であるため、仕事と介護の両立困難による生産性低下や事業活動への影響が懸念されます。実際に、ビジネスケアラーの離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額は、約9兆円にも上るとされています。
周囲のメンバーへの影響
介護離職は、企業の経済的損失だけでなく、同じ職場のメンバーにも影響を及ぼします。
介護を行う従業員の急な休暇の際、周囲のメンバーがどのようにカバーすれば良いのか、またその際の負担から生じる不公平感に対してどのように対処するかという課題があります。
EAP相談窓口をはじめとした、周囲のメンバーの抱える負担感や不満について相談する場の設置や介護や両立に関する研修を実施することも効果的です。周囲も当事者がどのような状況におかれているのかを理解し、自分が当事者に対してできるサポートや、環境調整に必要なことをより具体的に想定することがポイントになります。
ビジネスケアラーを支える『仕事と介護の両立支援対応モデル』
介護と仕事の両立の支援について、企業に求められる対応は、厚生労働省の『企業のための仕事と介護の両立支援ガイド』 にまとめられています。
厚生労働省は介護離職予防のための取り組みとして、従業員が介護に直面した際の円滑な両立支援をサポートするための「仕事と介護の両立支援対応モデル」を策定しています(※3)。
Step 1|従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握
まず、従業員が介護を抱えているかどうか、また両立に必要な制度への理解度に関する現状を、ヒアリングやアンケート調査などを用いて把握します。実態の把握は両立支援の第一歩です。画一的な支援ではなく、各従業員の実情に応じた支援を行うためには、介護の実態や両立への不安、直面する可能性のある課題をできるだけ正確に理解することが重要です。
このような企業による調査の実施や管理職の積極的な協力・参加は、組織全体が両立支援に積極的であることを示し、従業員が介護について話しやすい職場環境をつくることにもつながります。
Step 2|制度設計・見直し
介護はいつ終わるかわからないため、従業員が休みを取りやすい環境を整えるとともに、休暇や勤務時間の調整が柔軟に行える制度作りが重要 です。その際、実態把握の結果を参考にすることで、現実に即した制度を設計できます。
制度の設計・見直しは、従業員や労働組合と話し合い、課題を洗い出し、対策を検討しながら進めることが大切です。
Step 3|介護に直面する前の従業員への支援
介護は育児と異なりいつ必要になるか予測が難しいため、介護に直面する前に、離職せずに両立できるための情報提供や支援が極めて重要です。
具体的には以下のような取り組みが考えられます。
✔ 仕事と介護の両立を企業が支援するという方針の周知
✔ 「介護に直面しても仕事を続ける」という意識の醸成
✔ 企業の仕事と介護の両立支援制度の周知
✔ 介護について話しやすい職場風土の醸成
✔ 介護が必要になった場合に相談すべき「地域の窓口」の周知
✔ 親や親族と事前にコミュニケーションを取る必要性の啓発
Step 4|介護に直面した従業員への支援
介護に直面した従業員への支援は、3つの段階で行います。
1.相談・調整期 |
介護の始まりは予測が難しく、突然介護と仕事の両立が求められることが多いです。特に介護を始めたばかりの頃は、介護に関する知識や制度に関する情報不足が大きな負担となります。 この時期には、利用可能な制度やリソースに関する情報を提供することが重要です。 |
2.両立体制構築期 |
介護は多くの場合、現状維持から悪化するもので、状況が改善されることは少なく、終わりが見えないことから計画的な対応が困難です。そのため、介護の負担が増し、仕事を辞めざるを得なくなる場合もあります。 |
3.両立期 |
仕事と介護の両立には、介護状況の変化による生活や仕事への影響があり、身体的負担だけでなく心理的負担も大きくなります。 |
Step 5|働き方改革
すべての従業員に「時間制約」があることを前提とした職場環境を整えることで、介護に直面した際に制度を利用しやすくなり、また周囲からのサポートを得ながら仕事と介護を両立することが可能になります。
これを実現するためには、働き方の見直しや業務の可視化、そして個人の事情に対する相互理解を深める職場風土です。 が大切
さらに、現場での働き方改革を進めるためには、経営層による強いメッセージや、管理職が率先して改革に取り組む姿勢が不可欠です。
留意すべき点として、このような両立のための制度活用によって周囲の従業員が負担を感じることがあるという点です。
そのため組織は、働き方改革や風土作りと同時に、周囲の負担・不公平感の軽減のための取り組みを行うことが求められます。
詳細は『企業のための仕事と介護の両立支援ガイド』をご覧ください。
【事例紹介】介護に直面している従業員への支援
EAPに寄せられる相談にはどのような内容があるのでしょうか。今回は具体的な事例をもとに、介護に直面している従業員への支援について、企業に求められる対応のポイントをお伝えします。
※相談内容を元にプライバシーを配慮して修正を加えてまとめています。
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①地方の実家で倒れた父の介護が必要となった30代Aさんの事例
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Aさんは30代の会社員で、地方の実家で父親が脳梗塞により倒れ、突然介護が必要になりました。Aさんは遠方に住んでおり、遠距離介護と仕事の両立に悩んでいます。特に介護施設や訪問介護サービスの選定が必要ですが、どこから手をつければよいかわからない状況です。また、父が在宅介護を希望しているため、母親との役割分担や兄弟との連携も必要と感じており、仕事と介護のバランスを取るための具体的な方策がわからず、相談に来ました。
【対応】
Aさんのように突然介護が必要になるケースでは、情報不足により、介護と仕事をどのように進めていくかがわからないことがよくあります。そのため、必要な手続きや利用可能な介護サービスなどの情報提供が重要です。また、外部機関の紹介や資料の共有なども適宜行います。
両立を進めるためには、Aさんの状況や意向を確認しながら、介護と仕事にかけられる時間や労力を考慮した環境調整を行い、具体的なプランを作成します。
また突然の介護がもたらすプレッシャーや不安に対処するため、必要に応じてAさんの心理的負担へのサポートも行います。
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②母の介護で心理的負担が大きいBさんの事例
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Bさんは50代の会社員で、認知症を患う80代の母親を介護しています。母親の記憶障害や行動の変化により、Bさんは強いイライラや不安を感じており、特に夜間の徘徊による睡眠不足が深刻な問題となっています。介護と仕事の両立によるプレッシャーもあり、この状況を改善するために相談に来ました。
【対応】
Bさんの場合、介護による心身への負担が大きく、両立が困難になっています。そのため、勤務時間の短縮や業務量の削減などの職場調整が必要です。また心理的負担が非常に大きいため、心理的ケアも重要です。
Bさんは、介護によるイライラや不安に加え、家族であるがゆえの辛さや、自分はこれだけやっているのに報われないという感情から罪悪感を感じています。こうした状況では、否定的な感情は誰にでも生じるものであり、罪悪感を抱く必要がないことを伝えることが重要です。
さらに、睡眠不足が健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、介護サービスの積極的な利用を勧めることが有効です。特に親の介護に対して「自分でやらなければならない」という思いからサービス利用を躊躇することが多いため、サービス利用が「家族のためになる」ことを丁寧に伝えることが大切です。
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③子供の介護で休職していた30代Cさんの事例
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Cさんは30代の会社員で、子供の体調が悪化し、日中の付き添い介護が必要になりました。フルタイムで働いていたCさんは、仕事と介護の両立が難しく、一時的に休職しています。介護サービスの利用で時間に余裕ができたため、仕事への復帰を考え、両立の仕方について相談に来ました。
【対応】
まず、復職後の働き方について、Cさんの希望を整理します。同じようにフルタイムで働くのか、短時間勤務や業務量を調整するのか、Cさんのキャリアと介護の現状を踏まえて検討します。
Cさんは子供の介護を最優先に考えていますが、仕事のキャリアも大切にしたいという葛藤を抱えています。そのため、復職後のキャリアについて相談し、両立に対する希望や前向きな気持ちを高めることが重要です。
また、Cさんの周囲にどのような支援者やサポート体制があるのかを整理することも有効 です。仕事中に子供の世話を任せられる機関や、急な対応時に代わりに対応してくれる人がいれば、仕事を優先しながら介護と両立することが可能になります。
対応のポイント
介護される側、する側が置かれた状況は様々です。個別の状況に配慮しながら、以下ポイントを留意するとよいでしょう。
状況の整理
対応の第一歩は、当事者が抱える問題や置かれている状況を整理することです。環境調整、情報提供、メンタルヘルスケアなど、考えられる支援の中から適切な対応を選ぶためには、状況を丁寧に把握することが不可欠 です。
環境調整とそのための資源の確認
当事者を支援するには、仕事と介護を両立できる環境を整えることが重要です。その際、当事者の周囲にどのようなサポート資源があるかを確認することがポイントです。周囲の支援リソースを把握することで、個々のニーズに応じた最適な支援が可能になります。
ケアラーの心理的負担へのケア
介護と仕事の両立は、当事者にとって非常に大きな負担です。特に不安やプレッシャー、仕事や介護に対する葛藤が生じることが多いため、ケアラーの心理的負担に対する労いやケアは非常に有効 です。
まとめ
本記事では従業員が介護と仕事を両立するために企業ができる支援のあり方とそのポイントについてお伝えしました。両立支援には、制度の整備とともに、当事者の状況に応じた柔軟な対応が求められます。
制度の整備が進むことで、より柔軟な両立支援が可能になりますが、企業には従業員がその選択をしやすくする風土を作ることが求められます。誰もが予期せず当事者になり得ます。減少傾向にある労働者人口の確保の観点からも、介護に限らず、さまざまな事情を抱える従業員同士が支え合いながら働ける環境を整えることが、これからの企業にとって重要です。
サービス紹介
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参考文献
※1 内閣府「令和5年版高齢社会白書 第1章 高齢化の状況」
※2 内閣府男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書 特集 人生100年時代における結婚と家族~家族の姿の変化と課題にどう向き合うか~」
※3 厚生労働省「企業のための仕事と介護の両立支援ガイド」
※4 経済産業省「新しい健康社会の実現」