クライシスマネジメントとは?リスクマネジメントとの違いや具体的な進め方を解説
不測の事故や惨事が発生した際、経営層、管理職、人事、産業保健チームが行うべき対応は整理されていますか?
本記事では、惨事を「クライシス(危機)」とし、クライシス発生時の支援体制を整備しておく重要性や、具体的な対応フローについて解説します。
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目次[非表示]
- 1.クライシスマネジメントとは?
- 2.なぜ会社としてクライシスマネジメントを検討する必要があるのか?
- 2.1.クライシスによる二次被害の影響
- 2.2.クライシスマネジメントにおける心理支援の重要性
- 2.2.1.外部資源を活用する場合はシミュレーションがカギ
- 2.2.2.内部資源を活用する場合は人事体制を確認
- 3.クライシスマネジメントの進め方
- 3.1.準備段階
- 3.2.事故発生
- 3.3.事故発生から1か月後
- 3.4.外部資源を導入するメリットと視点
- 4.まとめ
クライシスマネジメントとは?
組織で起こり得るクライシスの例
職場で発生するクライシスには、自然災害や事故、従業員の自死、合併・閉鎖に伴うトランジションなど様々な種類があります。
ピースマインドに寄せられる相談のうち、多くを占めているのは、従業員が亡くなるケースです。自死や病気による死亡等が挙げられます。また、製造業など危険な工程を伴う業務の場合は、職場での事故によるクライシスが発生しています。
リストラ等のキャリアに関する出来事がクライシスに繋がることもあります。例えば、キャリアへの恐怖感や、家族を養っていくことへの不安感などに苛まれ、精神的に大きな衝撃を受けるといったケースです。
また、職場でのハラスメントをきっかけに、被害者が休職中に自死したケースもあります。
クライシスマネジメントとリスクマネジメントの違い
クライシスマネジメントとは、発生したクライシスにおいて、迅速かつ適切な初期対応をすることを指します。また、二次被害を回避するために、対応の計画を立てることも含まれます。これらが組織の将来を左右する「転機(”cricis”の語源)」になるのです。
私たちに馴染みがあり、似ている言葉に「リスクマネジメント」が挙げられます。
両者の1つ目の違いは、時系列です。リスクマネジメントは、万が一の場合に備え、組織への影響を軽減する事前管理のことです。クライシスを発生させないことに加え、クライシスマネジメントも含まれます。クライシスマネジメントは、リスクマネジメントのうち、特に事故が発生した後の初期対応を指します。また、二次被害防止のための計画や管理も含んでいます。
2つ目の違いは、組織にもたらす影響の緊急性です。「不確実性」や「予測不可能」な出来事を指し、ポジティブ・ネガティブいずれの局面にも起こり得るのが「リスク」です。一方、クライシスはネガティブ面が顕在化した、重大な局面を表します。災害や戦争、身近な人の死などはクライシスとなります。
日頃からリスクマネジメントとして、職場の安全点検を行っていても、クライシスの発生確率をゼロにすることは難しいです。あらゆる可能性を考慮し、事故発生時に迅速な対応を求められるのが、クライシスマネジメントです。
また、事故によって人が受ける影響のうち、特にメンタル面については、医療・精神科サービスとの連携が重要です。例えば、ストレッサー(ストレスを与える出来事や影響)の程度は人によって大きく異なるため、ケア対象の方の優先順位を判断する必要があります。また、ストレスの度合いは表面的に判別しにくいため、クライシスマネジメントでは必要な支援の選定が必要となります。
以上の点が、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いです。
なぜ会社としてクライシスマネジメントを検討する必要があるのか?
クライシスによる二次被害の影響
社内でクライシスが発生した場合、「どうして事故が起きたのか」という疑問が従業員に生まれます。疑問は後に、組織に対する不信感に変わっていく傾向にあります。
組織として「誰に」「何を」「いつ」「どこまで」事実を開示するか、統制しておくことが重要です。
事実を周知する範囲や、その後のケアが曖昧になっていると、以下のような混乱に繋がる可能性が考えられます。
①従業員のパフォーマンス低下
・事件・事故を受けて従業員が動揺し、集中力が欠ける状態で業務を行う
・ミスの発生や、心身の状態が不安定になる
・適切な支援を得られないことによる、メンタル不調やパフォーマンスの低下につながる
②社内のコミュニケーションに影響
・一部の情報から噂や憶測が広まる
・従業員同士でのネガティブな印象や、組織に対する疑心暗鬼から、社内のコミュニケーションに影響する
③企業・関係者への影響
・ソーシャルメディアを通じて、機密情報や事実無根の憶測・誹謗中傷が社外に出回る
④自責の念による精神不安
・「自分が話を聞いてあげていたら」「もっとこうすれば良かった」などの自責をはじめ、複雑な感情からうつ病や不安障害に繋がる
⑤休職や退職のリスク
・①~④の影響により、休職や退職する従業員が増える
このような二次被害を防ぐためにも、日頃からクライシスマネジメントを計画し、急な事故の発生に適切な対応ができるよう備えておきましょう。
クライシスマネジメントにおける心理支援の重要性
クライシスマネジメントにおいて、心のケアの進め方を考えておくことは特に大切になります。従業員のメンタルの様子を把握しておくことで、迅速に医療機関に繋げられるためです。
一般に、クライシスが発生してから、社内が平常に戻るまでは、1か月から3か月程必要だといわれています。人によっては3か月を超えても動揺が続くため、ケアが遅れるとより精神的な不安に繋がると考えられます。
適切なタイミングでケアが出来ず、仮に休職者が出た場合、休職者1人に対し周囲の従業員が残業するなどして422万円の経済的損失が生まれると言われています(※1)。
企業として経済的損失を最小限に抑えるには、事故が発生してからではなく、日頃からクライシス発生時の心理支援について検討を進めることが重要といえます。
外部資源を活用する場合はシミュレーションがカギ
日頃よりEAP(従業員支援プログラム)等の外部資源を活用している場合には、クライシス発生時に支援を受けることができるか確認しておきましょう。惨事の内容によっては、クライシス支援を受け付けていないEAPサービスもあります。
日頃から対応チーム全員で、クライシス発生時の動きをシミュレーションし、EAPを活用して対応できる準備をすることが大切です。
EAPで従業員が相談できる内容や支援方法は、以下の記事で解説しています。
内部資源を活用する場合は人事体制を確認
産業保健チーム等の内部資源を活用する場合は、以下の2点を予め確認する必要があります。
①産業保健チームのクライシス対応経験
社内に診療所がある場合は、事故発生時に社内の産業保健チームが対応方針や手順を把握しているか、確認しておきましょう。
役割が不明瞭であったり、スキルや対応実績に不安がある場合は、事故発生時にチームの焦りや動揺を引き起こし、支援の遅れに繋がります。
クライシスが発生した際のカウンセリングは、通常業務と比べ、より臨機応変で迅速な対応が求められます。また、事故の内容や影響する範囲によって、求められる専門知識も異なってきます。産業保健チームに対応できる実績があるか、ない場合は教育の機会が設けられているか確認しておくと良いでしょう。
②クライシス発生時の相談体制
事故発生時、社内のカウンセラーや産業医らが従業員の相談にすぐ対応できるスケジュールを組めるか、確認しておくことも重要です。「時間調整がつかず、対応してもらいたいのに出来ない」となっては、従業員の不安増大や、会社への不信感に繋がります。
また、相談対応の際は、特にプライバシーに考慮した環境を整備しましょう。カウンセリングルームがないケースや、相談者が職場で話したくない場合には、社外に場所を確保して面談を行うことになります。予め「どこで相談を受け付けるか」についても整理しておきましょう。
加えて、以下のポイントも検討しておきましょう。
・出社が困難な状況を想定し、対面以外の方法で相談対応する方法
・組織への不満や要望についての情報共有範囲と、相談者への同意取得についての確認
・対応に当たった産業保健チーム担当者のケア方法
クライシスマネジメントの進め方
ここまで、クライシスマネジメントを進める必要性について解説してきました。
以下からは、実際に計画するために検討すべきことを、フローごとに紹介します。
準備段階
外部・内部資源との連携の仕方や、対応チームの具体的な動きについて確認しておきましょう。
EAPサービスを活用している場合は、契約内容によって支援の範囲が異なる場合があります。予め、EAPの契約範囲でどのような支援が受けられるか、また対応実績がどれくらいあるかを確認し、社内外の連携フローを把握しましょう。
また、平時から精神的なレジリエンス(回復力)を高めたり、セルフケアを学んだりする研修を実施しておくことで、クライシス発生時にも個々の対応力を強くすることができます。
セルフケアについては以下の記事で解説しています。
事故発生
一般的に、事故発生から早くて1、2週間、遅くとも1か月時点で心理ケアを開始します。
発生直後にカウンセラーによる心理的支援を行っても、従業員のショックが大きく、支援内容を受け入れられないケースがあるため、従業員の状況に応じて支援開始のタイミングを調整しましょう。
介入しても、話すことが難しい状態では、ケア対象の優先順位付けや、必要なフォロー内容の検討に至らないため、支援が早ければ良いというものでもありません。専門家の知見を元に、適切なタイミングで対象者に合ったケアを行うことが大切です。
心理的支援を開始する間に、担当者は事故発生における事態の状況整理をしておきます。
確認すべき項目としては、支援範囲や、支援方法、スケジュール感、各セクターの役割、必要な連携先等などがあります。「いつ発生したのか」「その場に居合わせた人は誰か」「事件性があるのか」「マスコミ対応が必要か」等を把握することで、影響の範囲と深刻性を判断し、誰に対し優先的に心理ケアをする必要があるのか、スケジュール感と対象人数を把握できます。
事故発生時の対応に関する詳細は、以下フォームよりお問い合わせください。
事故発生から1か月後
心理的支援を開始する段階です。外部資源と、内部資源を併用する場合は、両者が重複したケアを行わないように調整することが求められます。必要なケアを明確にしたら、役割と進め方について適宜共有し、双方で検討しましょう。
また、時間が経過するにつれて徐々に回復の段階に入りますが、回復期の心理ケアも重要です。以下の記事で紹介する「アニバーサリー反応」等についても、社内で周知し、経過後のケアも継続していきましょう。
外部資源を導入するメリットと視点
クライシスマネジメントを行うにあたって、クライシス支援を実施するEAPサービス提供企業などの外部資源を活用すると、相談しやすい環境を迅速に整えることができます。
対応経験が豊富な企業であれば、人事・労務担当者との連携にも慣れているため、担当者においても従業員をケアする際に必要な対応を把握・実行しやすくなります。
自社に合った外部資源を検討する際は、以下のポイントを確認しておくと良いでしょう。
①対象地域の範囲
クライシスにおける心理支援は、対面で実施されるケースが多いです。国内外問わず、どの事業所で事故が発生しても対応可能か、確認しておくことが大切です。
②連携体制の柔軟性
自社で運用している産業保健チームとの役割分担ができるかどうかも確認しておきましょう。その時々において、ケアの内容や対象範囲が異なるクライシスマネジメントでは、臨機応変に役割分担できるサービスだと安心です。
③多言語対応
社内に日本語話者以外の従業員がいる場合、平等なケアを担保する上で多言語対応が可能か確認しておくと良いでしょう。
④カウンセラーの実績
クライシスマネジメントにおける支援内容は、臨機応変な出動やケア内容の変更など、通常相談と異なるスキルが求められます。経験豊富な実績があるか、どのような事故なら対応可能か等も注意して検討すると良いでしょう。
⑤人事・管理職へのコンサルテーション
クライシス対応が初めての組織の場合、担当者自身が動き方が分からず戸惑うケースもあるかと思います。人事や管理職へのコンサルテーションまで提供しているサービスの場合、発生時の対応は勿論、その後の職場の雰囲気・パフォーマンスにもたらす影響や、管理職として部下を支援する方法までサポートすることも可能です。
まとめ
本記事ではクライシスマネジメントを実施する必要性や、具体的なプラン策定の方法について解説してきました。
ピースマインドでは、専門的なトレーニングを受けたカウンセラーによるクライシス支援を行っております。EAPサービスと組み合わせることで、その後の生産性への影響の検討や、マネージャー支援、従業員支援も含めてサポート可能です。
まずはお気軽にお問い合わせください。
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