はじめに、コロナ禍以前である2019年度の相談件数と内容を、年度初頭に新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言が発令される事態となった2020年度、さらにコロナ禍が長期化している2021年度上半期と比較し、統計的な分析を行いました。その結果、2021年度上半期の相談件数は、2019年度の同時期に比べて51%増加したことが分かりました(図1)。相談内容を大きく「職場」と「プライベート」に分け、統計的な分析を行った結果、「職場」、「プライベート」に関する相談が共に増加したことが示されました。
2019年度から2021年上半期までの相談件数のうち、「自分のメンタルヘルス」の件数は、統計的に有意に増加し、「職場のストレス」、「仕事上の対人関係」、「家族・パートナー関係」、「休職・復職問題」と続きました。いずれも2019年度上半期のコロナ禍前と比して高い増減率であることから、新型コロナウイルスにより、「仕事」と家族・ パートナーとの関係といった「プライベート」両面への影響が顕著であることが示されました(表1)。
相談内容や件数の変化をさらに深堀すべく、2020年度の相談内容記述をベースに、単語の頻出度や関係性の分析(テキストマイニング)を行いました(図2)。その結果、中核となる単語は「仕事」であることが明らかとなりました。また、この「仕事」を取り巻く主な関連単語として、「仕事」と「上司」、そして、「仕事」と「自分」「思う」「言う」、さらに「仕事」と「不安」、「仕事」と「家族」「妻」が示されました。つまり、コロナ禍は、「仕事」に大きな影響を直接及ぼしたこと、また、「仕事」をする上で、自分の思いを伝える難しさを抱え、かつ「上司」との関係に悩む傾向があったことが窺われます。また「コロナ」という単語に中心性が示されたことからは、コロナ自体が相談内容のトピックとして挙がっていた可能性も推察されます。
次に、コロナ禍の長期化による変化を検討するため、2021年度上半期の相談内容をテキスト分析したところ、依然「仕事」に関する頻出度合いは高いものの、とりわけ「上司」という単語に中心性がハイライトされ、さらに「仕事」と「ストレス」、「上司」と「言う」「チーム」の関連性が示されました(図3)。2020年度との比較では、新たに「妻」「できる」に中心性が示され、「相談」「家族」との関連も明らかとなりました。また「問題」「不安」という単語の中心性の高さからは、2020年度に登場した「コロナ」自体というよりも、コロナによる「問題」「不安」が悩みの核である可能性が考えられます。
こうしたことから、コロナ禍の長期化においては、「仕事の質量の適切な調整」、「上司を中心とした対人関係改善」、「コミュニケーション力向上」が、従業員のメンタルヘルスの悪化防止のキーワードであるとともに、企業では介入が難しいながらも、業務パフォーマンスに大いなる影響を及ぼしかねない「プライベート」な部分、とりわけ、「家族・パートナー関係」に関する支援が、一層求められると考えられます。
コロナ禍でテレワークが推奨される中、業務性質上、オフィスへの出勤をせざるを得ない状況であった。 報道では無症状感染者がいるなど不安な情報ばかり。会社は時間制限や距離、業務上接する相手への消毒依頼など一定の基準を設けているが、自分がいつ感染するかもしれないと思うと不安でたまらない。 こうした心理的不安の中、感染を疑わせる顧客を接客せざるを得ない状況となってしまった。上司に報告したところ、「早く帰って」と、まるで感染者扱いをするような態度で接してきたことがきっかけで、「上司はおかしい、この会社は信用ができない」と、気持ちが収まらず相談をした。
相談者の不安感、上司の対応に対する気持ちを共感と共に丁寧に伺い、安全に働くために必要な対策を人事部門の方や産業保健スタッフと話し合ってみること、その動きを当社カウンセラーと共に進めていくことを提案。後日、人事部門の方からPCR検査や一定期間の休養などの対応がなされたことを確認した。最後に相談者と、今回の不安や怒りの原因を改めて整理し、相談終結となった。
入社早々にテレワークとなったことによる人間関係を構築する難しさや、見えない相手とのコミュニケーションの難しさを共感すると同時に、心身の健康状態について確認。医療機関の早急な受診を推奨した結果、受診後休職に至り、休養に専念することになった。一定期間休養後、カウンセリングを再開。主治医や産業医の復職に対する医学的見解を確認の上、再発防止の検討、および、テレワーク下でのコミュニケーションを円滑にするための取組みを行い、無事復職。復職後の安定勤務を確認し、相談終結となった。
まず、相談者と妻双方のストレスを低減させるため、自分の時間や仕事のスペースが確保可能な近隣のコワーキングスペースの利用を一緒に検討し実践。その結果、妻のストレスはやや和らぎ、子どもへの影響は低減するも、妻との関係に依然課題がみられた。カウンセリングでは、妻との間で摩擦が生じるメカニズムを検討し、互いがパーソナルスペースを必要としていることを認識。夫婦間での境界線の必要性を説明し、コミュニケーション方法を検討した。次第に妻との関係も落ち着いたことから、相談終結となった。
本調査では、コロナ禍による「仕事」「プライベート」両面での負の影響が反映された結果となりました。他方、新たな生活様式、とりわけテレワークにより、家族関係、仕事と家庭の両立、職場での人間関係改善といった正の要因がある可能性が示唆されました。
従業員の仕事とプライベート両面の課題解決のサポートを含めたメンタルヘルス対策や職場のコミュニケーションの改善策を実施することは、サスティナブルな企業活動を支える上で大変有益なものとなるでしょう。
今後もピースマインドでは、はたらく人と組織のウェルビーイングに寄与する研究、ソリューション開発、サービス提供を進めてまいります。
【調査概要】
調査対象期間 : 2019年4月~2021年9月
調査方法 : 当社EAP(従業員支援プログラム)サービスの利用実績から、今回の調査に適合するものとして抽出した12,545件の相談内容を対象にコロナ禍前後の変化を分析
調査実施者 : ピースマインド EAPコンサルタント
後藤麻友(公認心理師・臨床心理士・国際EAPコンサルタント(CEAP))
黒田隆太(公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー)
岩﨑優里(公認心理師・臨床心理士)
【参考情報】
https://www.peacemind.co.jp/service/eap
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/315
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/310
https://www.peacemind.co.jp/newsrelease/archives/303
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【プレスリリース】2021-11-04_コロナ禍で、はたらく人は何に悩んでいるのか?~はたらく人の相談12,545件の傾向分析~.pdfリッチテキストを入力してください