2024-01-12 10:00
今回のご相談者
物流業B社 人事部総務部 課長(従業員数280名/本社所在地:東京都台東区、支社(倉庫):埼玉県戸田市)
ピースマインドEAP(スタンダードアシストプラン)を導入して約2年が経過。日々社員の皆へEAPの周知を続けている。更に有意義にEAPを活用していくために、ピースマインドEAPのお助けマン・ミスターパインの下に相談に訪れた。
お助けマン
EAPやストレスチェックなど、ピースマインドが提供するサービスのご担当者が抱える課題を解決し、企業にお勤めの皆さまの「はたらくをよくする®」ことに喜びを感じながら日々活動している相談役。趣味は英会話。
小田原さん「パインさん、ご無沙汰してます。前回(第1回、第2回、第3回)はハラスメント対策の件でいろいろご相談にのっていただいてありがとうございました。」
パイン「Long time no see! その後の取り組みの状況はいかがですか?」
小田原さん「ハラスメント対策は、研修なども含めて一通り出来たかなと思います。目立ったハラスメント案件はないですし、理解も進んだと思ってはいるのですが…ちょっと気になることがありまして。」
パイン「どうしたんですか?」
小田原さん「もともと、殴る蹴るみたいな暴力的なハラスメントや、暴言はほとんどなかったのですが、いわゆる心理的安全性が低いというのか、職場で若手がのびのび働けている感じがしないんですよね。従業員満足度調査でも、職場風土だったり、思ったことを率直に言えるかみたいな項目が、低かったりするんです。ちょっとギスギスした感じというか、停滞しているというか…。」
パイン「I see…もしかしたら職場に『インシビリティ行動』が拡がっているかもしれませんね。」
小田原さん「インシビリティ行動?初めて聞きました。どういうものなんですか?」
パイン「インシビリティは直訳すると『無礼さ』とか『配慮のなさ』といった意味で、分かりやすく言うと、他人に対する尊敬や思いやりを欠いた行動のことを指します。例えばこんな感じの行動ですね。」
小田原さん「あ…これ自分もやっちゃってることあるかもしれません。メンバーの意見を聞き流しちゃったりとか…。ここまでいかなくても、忙しいとPCの画面見たまま会話しちゃったりとかも、該当するかもしれませんね。」
パイン「小田原さんみたいに、このインシビリティ行動というのは、多くの場合悪気なくやっていますし、場合によってはそのような行動をしている自覚がなかったりするんです。」
小田原さん「無自覚にやってるなと思いました。余裕がないときとかは特に出やすいかも。」
パイン「Exactly.こういう行動は、一度きりであればもしかしたら『今忙しいのかな』とか『機嫌が悪いのかな』ってやり過ごせることもあるかもしれません。ただこれが繰り返されたと考えてみると…。」
小田原さん「それは嫌な思いをしますね。若手が上司にされたら『嫌われてるのかな』とか『認められてないのかな』と思ってしまいそうです。」
パイン「だからこそ、まずはそういう行為を自分がしていることに気づけることが大事なんですよね。」
小田原さん「確かに気づいたら直せることも多そうですよね。ただ、ハラスメントではないし、うちの会社みたいな社風だと、管理職自身もこういうことをされながら育っているので、『これくらいのことで』みたいな人もいるような気がします。」
パイン「『これくらいのことで』。これが鍵なんですよね。インシビリティ行動が出やすくなる背景には、その人の価値観や考え方が色濃く影響している場合があります。例えば、『若いうちは自分の意見なんて聞いてもらえないのが当然だ』とどこかで思っていたら、若手の意見を聞き流す、みたいな行動が出やすくなりそうですよね。
このインシビリティ行動が、ストレスやワークエンゲージメント、生産性や離職に影響することは研究でも明らかになっているんです。『これくらいのこと』が、自分の組織の成果に影響するって改めて考えると、インシビリティ行動を改善することは大事に思えてきますよね。」
小田原さん「職場の生産性向上につながるかも、って考えると、少し管理職の受け止め方も変わるかもしれませんね。とはいっても、考え方や価値観ってそんな簡単に変わると思えないんですが、どんな風にアプローチしていけばよいものなんでしょうか?」
パイン「OK!このあたりは説明すると長くなってきますので、次の回でお話ししましょう!」
今回ご紹介した「インシビリティ」という言葉は、もしかしたら耳馴染みのあまりない言葉かもしれません。(2019年に『Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』という本がヒットしたので、「シビリティ」という概念はご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。)
インシビリティは直訳すると「礼節の欠如」「無礼さ」「配慮のなさ」などの意味を持ち、相手を傷つけようとする積極的意志は曖昧なものの、他人に対する思いやりや配慮を欠いた失礼で無作法な言動を指します。
これらは明確なハラスメントではないものの、放っておくと従業員間のコンフリクト(衝突)や、職場のいじめ・パワハラなどを引き起こす可能性があります。また、さまざまな先行研究において、ストレスや生産性低下などとの関連性が明らかになっています。
インシビリティ行動の1つ1つの行為だけを見てみると、もしかしたら「よくあることでしょ」「忙しかったり余裕がなかったらそういうこともあるよね」で済ませてしまいがちなものもあるかもしれません。しかし、これらの積み重ねがギスギスした職場を生み、従業員のパフォーマンス低下に繋がっていると考えるとどうでしょうか。
スウェーデンのある研究(*)では、インシビリティ行動の頻度に大きな影響を与えていたのは、仕事の状況や周囲のサポートの薄さよりも、「自らがインシビリティ行動をされた経験」という結果も出ています。負の連鎖を止めるためにも、「よくあること」で済ませずに、インシビリティ行動の改善を考えてみてはいかがでしょうか。
ピースマインドでは、インシビリティ行動の改善も含め、ハラスメントに関する企業の状態に応じたさまざまな研修・サービスをご用意しております。ぜひお気軽にご相談ください。
・「インシビリティ」は、他人に対する尊敬や思いやりを欠いた行動のこと
・放置するとハラスメントやストレスの悪化。生産性低下の要因に
・インシビリティ行動は再生産されやすい可能性も
* Eva Torkelson, Kristoffer Holm, Martin Bäckström, and Elinor Schad (2016)
a Factors contributing to the perpetration of workplace incivility:
the importance of organizational aspects and experiencing incivility from others