人がストレスに対処する行動は、ストレスコーピングと呼ばれます。例えば、心配事がある際に、それを解消するために人に相談したり、体を動かして気分を転換したりすることは、ストレスコーピングの一つです。その他にもストレスコーピングはありますが、人や物にあたるなど不適切なコーピング方法もある点には注意が必要です。ピースマインドでは、6種のストレスコーピングを測る尺度を開発しています。
ストレスコーピングが、1年後・2年後のストレスに与える影響について分析した結果が、図2です。これらの図は、値が正の方向に大きくなるほどストレスを改善する効果が、負の方向に大きくなるほど悪化させる効果があることを示しています。
それでは、感情的な発散をするよりも前向きな思考を上手くできるようになると、ストレスはどの程度低減するのでしょうか。データを用いてシミュレーションした結果、これらストレスコーピングが改善した場合、ストレス得点が6.96ポイント改善されることが明らかになりました。厚労省の基準で77ポイント以上が高ストレス者に該当することを踏まえると、実に49%の高ストレス者を削減できるということになります。あくまでシミュレーションではありますが、適切なストレスコーピングを行うことによって、ストレスを低減できることを示す結果と言えるでしょう。
COVID-19の流行以降、我々の働き方は急激に大きな変化を見せています。この流行をきっかけとして、新たな働き方が導入・定着し、柔軟な働き方の実現が進む一方、その変化が急激であるため、新たな生活様式・働き方の中で生じるストレスへの対処が大きな課題になっています。
今回の分析では、よりストレス低減に効果的なストレスコーピングについて分析を行いました。先行研究では、従業員のストレス状態は、離職や休職といった人材の定着と深いつながりがあることが示されています。(※5、6)そのため、企業として新たな働き方を機能させ、持続的に企業活動を行っていく上では、はたらく人のストレスコーピング能力を高め、新たな働き方への適応性を高めていくことが重要になると言えるでしょう。ストレスチェック等のサーベイを利用して、はたらく人自身がコーピングスタイルを自覚できるようになること、コーピングスキルを身に着ける機会を提供することで、自律的にストレスに対処できるように支援することが望ましいと思われます。
今回は、労働者のストレスという観点から、with/afterコロナ時代の新たな働き方への適応のポイントの一つをお示ししました。今後もピースマインドでは、はたらく人と組織の長期持続的な成長、さらには持続可能な社会づくりに寄与する研究、ソリューション開発、サービス提供を進めてまいります。
*1 2017年から2019年度のデータを用いて分析しています。
*2 テレワークの労務管理等に関する 実態調査,厚生労働省.,2020
*3 朝日新聞世論調査,2020
*4 抑うつおよび自動的思考とCoping様式との関係についての一考察 ,林 潔.,2004
*5 A Japanese Stress Check Program screening tool predicts employee long-term sickness absence: a prospective study, Tsutsumi et al., 2018
*6 Occupational stress and the risk of turnover: a large prospective cohort study of employees in Japan, Kachi et al., 2020