企業のESG活動への評価は、環境、社会、ガバナンスそれぞれに含まれる具体的な下位指標への評価からなります。それら下位指標がストレスに与える影響を分析した結果が、図1~図3です。これらの図は、値が正の方向に大きくなるほどストレスを改善する効果が、負の方向に大きくなるほど悪化させる効果があることを示しています。
環境活動では、水資源の効率利用や地球温暖化を抑制するクリーン技術などの活用を示す水問題スコアやクリーン技術活用スコア、そしてそれぞれの管理スコアが、従業員のストレス状況にポジティブな影響を及ぼしています。環境に配慮し社会に貢献しようとする企業の姿勢は、従業員の業務に対するやりがいや組織への誇りへとつながり、結果としてストレスを抑制する可能性が考えられます。 しかしその一方で、有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理等の活動は、従業員のストレス状況にポジティブな影響を与えていませんでした。業務遂行にあたり、有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理の重要性は理解しつつも、業務が複雑になることで業務負担が高まるのかもしれません。
SDGsが採択されて以降、投資家たちは、安定的で持続的なリターンを生む投資への関心を高めており、今後企業のESG活動は、さらに重要性を増すものと思われます。しかし、今回の分析の結果、企業のESG活動のうち、E(環境)の有害物質の排出/廃棄に対する制限・管理の活動や、ガバナンスの活動は、労働者のストレス状況にネガティブな影響を与える可能性が示されました。メンタルヘルスについての先行研究では、従業員のストレス状態は、離職や休職といった人材の定着と深いつながりがあることが示されています。(*3、4)そのため、企業として、今後も継続的にESG活動に取り組んでいく上では、それら活動と並行して、従業員のストレス状態の悪化を防ぐ活動が必要になってきます。 S(社会)の労務管理についての活動が、従業員のストレスを軽減する可能性とあわせて考えると、人事/管理職が従業員の労働状況を適切に把握し、必要に応じてケアすることや、従業員自身もストレスをうまくマネジメントするスキルを高めることが、企業としてESG活動を推進する際のポイントの一つと言えるでしょう。
今回の調査では、労働者のストレスという観点から、企業の安定的・持続的な経営のポイントを示しました。今後もピースマインドでは、企業の長期持続的な成長、さらには持続可能な社会づくりに寄与する研究、ソリューション開発、サービス提供を進めて参ります。
*1 2017年から2019年度のデータを用いて分析しています。
*2 Do Environmental,Scial and Governance Acivities Iprove Corporate Financial Performance?, Xie et al. , 2019.
*3 A Japanese Stress Check Program screening tool predicts employee long-term sickness absence: a prospective study, Tsutsumi et al., 2018
*4 Occupational stress and the risk of turnover: a large prospective cohort study of employees in Japan, Kachi et al., 2020